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アゲハ
【その他 官能小説】

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レイラ-33

私がカーテンの奥を凝視すると、モータ-音が聞こえた。カーテンの奥で、ベッドの上の人物がゆっくりと上体を起こした。
頭髪の1本も無い、真っ白い顔が浮かんでいる。かつては魁偉な風貌であったのだろうが、殆んどの贅肉を失った今、巨大な頭蓋骨と色の抜け落ちた肌だけが目につく。
年齢はおそらく70代初め。首に何本かのチューブがつながっており、それより下は衣服に覆われて見えない。チューブの中を、赤や透明な液体が流れていた。更に別の、様々なチューブや導線がベッドを囲む医療機器からのびている。
『あなたが社長ですか?』
「質問は許していない。」
灰色の瞳が私を睨みつけた。私は寒気を覚えた。正気はまるで感じとれないというのに、なぜか意志だけがそこには存在する。まるで肉体は死を迎えているのに、心がそれを拒んでいるかのようだ。
「女、お前に伝える事は1つだ。」
『はい。』
私は目の前の老人が組織の全てを知る社長だろうと判断した。
「女、我が社への入社を許可する。今後ともフールの下で我が社の為に尽力せよ。以上だ、下がれ。」
社長はそれだけ言うと、再びベッドへと体を倒した。
『待って下さい!質問の許可を!!』
社長にはそう言った私の言葉が届いていないかのようだった。
そしてレースのカーテンの奥と全ての窓に厚い緞張が降り、部屋は暗闇に閉ざされた。
「レイラさん、無駄だよ。そいつはもう死にかけてんだから。」
背後のドアが開き、暗闇の部屋に光が射したかと思うと、光と共に声がした。
私は光の射す方向へと歩いた。声の主はアゲハだった。
アゲハはすぐ隣の部屋にいたようだ。
私が社長のいた暗闇の部屋を出ると、そこは全てが白で統一された空間だった。
開いたドアに近い壁際に置かれた椅子にもたれかかるアゲハを私は睨み付けた。
『どうゆう事なのか説明しなさい!』
私は叩き付けるように吐き出した。
「怒らないでよ。しょうがなかったの!」
アゲハは冷ややかに言った。
わざわざ私の意識を奪い、ここまで連れてきた彼女の行動にはどんな裏があるのか。
『クロロホルムを使ったのね。お陰で酷い吐気だわ。』
事実だった。私の意識を奪う為に使われたクロロホルムは目覚めた時の副作用として、私に強烈な吐気をもたらしていた。
「ごめんなさい。でもレイラさんが素直に来てくれるとは思わなかったから。」
アゲハは落ち着いていた。
『何が目的なの?!あの社長に会わせるだけなら、こんな真似はいらなかったわね。』
「レイラさんと蓮を会わせちゃいけないって言われたの。」
フールがそう言ったのだろうか。あの男の考えは全くわからない。
私が蓮に司法取引を持ち掛けようとしている事どころか、これから麻取とINCの強襲が始まろうとしている事すら知るはずないフールに、私と蓮を会わせたくない理由があるのだろうか。
『あなたとフールの目的は何?』
私は静かに聞いた。
「落ち着いてよ。今隣では重役会の真っ最中なんだから。」
『なんですって?』
私は時計を見た。時刻は2時半。蓮との約束からは既に1時間が過ぎていた。
「重役会、見てみる?」
アゲハはそう言うと手にしていたリモコンを作動させた。すると壁がスライドし、窓が現れ、その窓には隣の部屋の様子が写った。
「マジックミラー。むこうの声はこっちのスピーカーから聞こえるの。」
アゲハが更にリモコンを作動させると部屋に備え付けられたスピーカーから音声が流れた。


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