投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

アゲハ
【その他 官能小説】

アゲハの最初へ アゲハ 26 アゲハ 28 アゲハの最後へ

レイラ-24

モーテルを離れ、築地の倉庫の近くまでポルシェを走らせると
「またね!」
フールはそう行って倉庫の方向へと歩いて行った。私はフールが完全に視界から消えるのを待ち、携帯から蓮へと連絡を入れた。
<レイラか?>
携帯が2度コールする前に蓮は応えた。
『ええ、今から会えない?』
<少し走らないか??>
蓮の声と共に、エンジンを噴かす音が聞こえる。
『ポルシェの足なら充分に試させてもらったわよ?それともコルベットで?』
ポルシェのウィンドウを下ろしながら、そう蓮に尋ねると、蓮の声と共に聞こえるエンジン音が私の後方からも聞こえた。
「そう言わずに、ポルシェで頼む。」
ポルシェの左側で停まったエンジン音の主はそう言った。
聞こえていたエンジン音の正体はハーレーダヴィッドソンFLHR、蓮だった。


蓮は常磐道をひたすら北へ向かった。私は蓮の後ろをポルシェでついていく。スピードメーターは限界ギリギリだ。
SAに寄る事もせず茨城県内を暫く走ると、東へ向かう東関東自動車道へと入った。
蓮は東関道を降りる料金所でも止まる事は無く、そのまま料金所を無視して突破した。私もそれに倣い、蓮に続いた。
一般道へ降りると、そこはどうやら海の近くの様だ。風に潮の薫りが混じっていた。
蓮は拓けた海岸線を見付けると、私に合図しハーレーを停める。
もう夜が明けようとしていた。
改めて考えると、本当にハードな24時間であった。朝は青山、昼は蓮と合流し常務の排除、夜はフールと共にトラックジャッカーと戦争ごっこをして、深夜にアゲハへの納品、そしてもう朝になろうとしている今は睡眠も取らずに茨城にまできている。
私は蓮のすぐ横にポルシェを停め、ハーレーに跨ったままの蓮のもとへと歩み寄る。
「あれ、なんて読むんだ??」
蓮が海岸線に立つ標識を指差して言った。そこには【阿字ヶ浦】の文字。
『アジガウラね。日本語、読むのは得意じゃないの?』
「少しな、ずっとアメリカで育ったんだ。」
蓮はタバコに火を着けた。
『私、あなたの事何も知らないわね。』
「知りたいと思うか?」
私は黙って頷いた。蓮の事を知りたいと思うのは本心だ。ただ、会話の中に司法取引を持ちかけられるような弱味となる情報がないかと期待してしまう汚い自分がいた。その事に酷い自己嫌悪感が湧いてくる。
「俺の親父は韓国人の科学者でね、仕事でずっとアメリカにいたんだ。母親は韓国に残って俺を育てたが、俺が4つの時に死んだ。」
『という事はあなたも韓国人なのね?』
「あぁ、だがその後俺を引き取った親父がアメリカ国籍を取得し、俺もアメリカの国籍を持った。親父は仕事に没頭する人間でね、他人に俺の世話を任せっぱなしで、顔を合わせるのは年に1〜2度だった。だがその間に教育だけは人一倍受けさせられた。日本語もその時覚えたんだ。」
『今そのお父様とは…?』
「親父は俺も科学者にしたかったらしい。だが俺はその期待を見事に裏切った。疎遠もいいとこさ。」
『そう。』
蓮は跨っていたハーレーから離れると、砂浜へと降りた。
「レイラ、君が総てを知るのはまだ先になるだろう。」
一体どういう意味なのだろうか。私は訳がわからないという顔で蓮を見つめる。
「ただ、俺の事を信じて欲しい。何があっても。」
蓮は詳しい事を話すつもりはないようだった。私は問いつめたい気持ちをしまい込み言った。
『わかった、信じるわ。』
それを聞いた蓮は私を砂浜へと引き寄せ、強く強く抱きしめる。その腕はとても心強かった。
潜入を続ける以上、私は蓮を利用して重役達や社長へと近付かなくてはならない。蓮次第では私の命も脅かされる事になるだろうが、不思議と蓮に命を預ける事に躊躇いはなかった。
これが私なりの愛という感情なのだろうか。ただ今だけは、自分が蓮を欺き、騙しているという事を忘れていたかった。


アゲハの最初へ アゲハ 26 アゲハ 28 アゲハの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前