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アゲハ
【その他 官能小説】

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レイラ-2

その時私は、ある麻薬犯罪組織の末端に当たる売人を追っていた。
私に取引の現場をおさえられた事で追い詰められ、逃げ切れない事を悟った売人は麻薬組織本部の人間に助けを求めた。
ドジを踏んだ売人もろとも私を消す為に、本部からは何人もの人間が派遣され今度は私が追い詰めらる形となっていた。だが麻取の同僚達に助けを求めるつもりはない。私が同僚達に助けを求めれば
[女の取締官は現場には立つべきでない]
という古臭い慣例を益々肯定してしまうだろうから。
郊外にある旧繁華街の薄汚い裏路地で逃げ場を失った私はどうにかして活路を見い出そうと考えていた。
「お姉ちゃん、警察か??こないな余計な仕事に手出さんかったらもっと長生きできたのになぁ。」
私を囲んだ男達の1人が言った。
「婦警さんは交通キップきってるのが似合ってるよ!」
また別の男がそう言い私の胸ぐらを掴んだ。先程関西弁で話した男が右手をダブルのスーツに挿し込み拳銃を取りだすと、私のこめかみへと当てがう。おそらく拳銃はロシア製トカレフをコピーした粗悪品だろう、だが銃を頭につき付けられていたのでは弾が外れる事は考えられない。

―くそっ、

私は生を諦めかけていた。
しかしその時、奥の路地から黒のコルベットがエンジンの唸りを上げ飛び出してきた。私を囲んでいた男達を薙ぎ倒し、拳銃をつき付けていた男もボンネットに接触し、拳銃を手放していた。
「乗ってくか?」
ハンドルを握った男が助手席のドアを開けそう尋ねた。私を取り囲んでいた男たちが次々と拳銃を取りだし、コルベットに向け発砲した。しかし防弾装甲が施してあるらしく、コルベットはビクともしなかった。
私は男に従い無言で助手席のドアに飛び乗った。男は直ぐにアクセルを踏み、急発進した勢いでドアが閉まった。
そして発砲した男達を遥か後方に残し走り去った。
『助けてくれたの??』
面識も無い男に助けられた理由が解らず私は訪ねた。
「あぁ、何故あんな事になったかは知らないが、奴らは俺の商売敵でね。する事全て邪魔したくなる。ま、お陰でこんな美女を救えた」
とぼけてそう答えた男。
『そう、ありがとう。』
この男が今、私に危害を加える事は無いだろう。だがこの男は麻薬組織の本部の人間を商売敵と呼んだのだ。先程の男達の同業者である可能性は高い。それに、車に防弾装甲が施してある時点で一般人とは思えない。
高い身長、襟足を長く伸ばした黒いウルフの髪、東洋系の顔、高く通った鼻筋、凛とした印象を受ける輪郭、どれをとっても甘く二枚目と言える男の容貌だったが、切長で鋭過ぎる黒い瞳がせっかくの二枚目の顔を台無しにしていた。
結局この男が何者であったかは私が都心の駅近くで車を降ろされるまで終にわからなかった。けれど、この男に私が命を救われたことは紛れもない事実だ。
私が同僚の男達に混じりこれからも内偵を続ければ、また危険な目に遭うかも知れない。だがそんな考えと共に、またこの男と出会う事になるかも知れない、という予感の様な物があった。
もしまた出会う事があるのならば、その時この男が私と敵対する立場で無い事を願った。
その後、この一件で情報が確な物と立証され、麻薬犯罪組織の本部を摘発し麻取は強制捜査を行った。ただ、私が強制捜査、ガサ入れに立ち会う事は許可されなかった。
隠し切れない程の苛立ちがつのったが、私は今までの情報収集で、自分の天職は実際に現場に赴く事による情報収集だと確信していた。私の容貌は犯罪者達を油断させる最大の武器になる。
この一件は私に、誰にも認められる事がなくてもこの方法での取締を続けていこうという決心をさせていた。


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