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海の香りとボタンダウンのシャツ
【OL/お姉さん 官能小説】

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こうじ-1

 『こうじ』はメッセージで伝えてきた通りの淡い黄色のシャツにジーンズ姿でその店の一番奥のテーブルで待っていた。
 美紀が近づくと、彼はすぐに気づいて立ち上がり、頬を少し赤く染め気をつけの姿勢でぎこちなく微笑んだ。美紀はすっと右手を差し出した。『こうじ』は一瞬戸惑ったが、ふっと頬の筋肉を緩めてその手を握り返した。

 『こうじ』は本名を島袋晃司と言った。美紀よりも2つだけ年上だったが、眉の太い童顔がまだ20代と思わせる趣をたたえていた。
「あの、」くりくりした目をしばたたかせながら、島袋は躊躇いがちに口を開いた。「良かったんですか? 僕なんかと会って」
「はい」美紀はにっこりと笑った。
「で、でも、不安じゃありませんか? 今まで会ったこともない男とこうやって、その、親しく会話をするってこと」島袋は慌てて付け加えた。「あ、いや、親しくってほどじゃないですね、まだ」
 そう言って彼は頭を掻いた。
「お名前も教えていただいたし」美紀は微笑みながら島袋の目を見つめた。

「土曜日の夜、お友達と過ごしたりしないんですか?」美紀が訊いた。
「一人だと休日は暇です」
「島袋さんの仕事って、土日が休みなんですか?」
「え? は、はい。恵まれてますよね、確かに」
「水泳は小さい頃から?」
「はい。高校まで水泳部でした」
「あたしも大学までやってたんですよ」
「ほんとですか?」島袋は目を剥いて身を乗り出した。「すごい! 奇遇ですね」
 美紀はふふっと笑って言った。「貴男がプロフィールに『水泳』って書かれてるのもあたしがお返事を差し上げた理由の一つなんです」
「あ、ああ、そうか。そうでしたね」島袋はまた頭を掻いた。
「お休みの時には海に行ったりされるんでしょう? ご趣味がマリンスポーツだったら」
「一泊ぐらいじゃ楽しめません。せめて一週間ぐらいどこかに滞在しないと」
「サーフボードとかですか?」
「いえいえ、僕は潜る方」
「ダイビング!」
「興味ありますか?」
「海はあたしも大好きです」

 美紀は目の前のこの男性が、あの黒眼鏡の男と違って、いかにもカラダの関係を求めるような会話に持ち込もうとしないことにかなりの好感を持ち始めた。自分の趣味とか楽しいことを、本当にいきいきと身振り手振りを交えて語る姿は少年のような雰囲気さえ感じさせた。

「どこかで飲みます?」
 美紀が切り出した。
「お酒、大丈夫なんでしょう?」
「そうですね。僕もなんだかお腹が空いてきました」


 街の居酒屋に入った美紀と島袋は、生ビールのジョッキで乾杯した。
「よろしくお願いします」島袋が言った。
「こちらこそ」美紀も言って微笑み、ジョッキのビールを豪快に煽り、一気に半分ほどごくごくと喉を鳴らして飲んだ。
「うわあ……」島袋はあっけにとられてその美紀の姿を見ていた。「マキさんって、なんだか逞しいですね」
「ごめんなさい、はしたないですね」美紀は照れたように笑った。
「そんなことないです。僕も緊張がほぐれてきました。取っつきにくくて話が弾まない女性よりずっと素敵だと思います」
「ビール好きなんです。島袋さんは?」
「僕も好きです。僕は出身が沖縄なんですけど、ゴーヤーチャンプルーにビールは最高の組み合わせだと思います」
 美紀はメニューを手に取り、ページをめくった。
「このお店には……あ、ありますよ、チャンプルー」
「ほんとに? 注文していいですか?」島袋はひどく嬉しそうに言った。


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