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海の香りとボタンダウンのシャツ
【OL/お姉さん 官能小説】

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こうじ-2

 小皿にゴーヤーチャンプルーを取り分けながら、美紀が訊いた。「出会い系サイトって、男の人は有料なんでしょう?」
「え? ああ、あのサイトですか? いや最初に会員登録すると、初回ポイントをもらえるんです。100ポイント。だからそれがなくなるまでは一応無料ですね」
「そうだったんですね」
「最初から有料のサイトもあるらしいですけどね」
「そのポイントで何ができるんですか?」
「掲示板で女性を探して、誰かのプロフィールを見るのに2ポイント、メッセージを個人的に送ると5ポイント。他にも秘密のプロフィールを見たり、写真を見たりするとまた数ポイントずつ持って行かれます」
「そういうシステムだったんですね……」美紀は箸を手にとって言った。
「名前は本名じゃないし、年齢もほんとかどうかわからないし、掲示板では一言『寂しいの』とかしか書かれてないんで、プロフィールを開けて見るのはある意味賭けです」
「何人かの女性のプロフィールをご覧になりました?」
「ええ。でもなかなかしっくりこなかった。貴女以外は」島袋はにっこり笑って輪切りにされたゴーヤーを口に入れた。
「そうやって男の人って、いい人に巡り会うまでポイントを消費し続けるってことなのかな」
 口をもぐもぐ動かしながら島袋は言った。「たぶんね。ポイントがなくなりかけたら、コンビニで支払って追加する。まあ、あんなサイトはそうやって稼いでるんでしょうね」
「一大ビジネスですね」
 島袋は箸を折った箸袋に置いて、両肘をテーブルについて顎を支えた。「だから僕はとってもラッキーでした。初回ポイントの範囲内でこんなに素敵な女性と巡り会えたんですから」
 そして彼は頬をほんのり赤くした。
 美紀も顔が火照るのを感じ、思わず目の前のジョッキを持ち上げ、ビールを口にした。

「でもね、僕も会員になった日に、何人かの女性にメッセージを送ろうと思っていろいろ見てみたんですけど、掲示板に並んでいるのは20代の女性ばっかり、しかもみんなタグは『スグ会いたい』です」
「そうなんですね……20代ですか」
「試しにそのうちの一人のプロフィールを見てみたんですけど、わりと明るくて、会えそうな時間帯も一緒だったのでメッセージを送ってみたんです」
 美紀は頷いた。
「そしたら、すぐに返事が来て、何て書いてあったと思います?」
「すぐに返事が来たんですか。すごいですね。まるで待ち構えてたみたい」
「待ち構えていたんだと思います。『割り切り。条件はゴム使用、ホテル代別、いちさん〜いちご。条件が合わなかったらスルーして』って書いてありました」
「それって……」
「援助交際希望者ですよ。僕は一気に女性不信に陥りました」島袋は笑った。
「お小遣い稼ぎ感覚ですね」
「その通りだと思います。援助交際なんて言いますけど、結局は売春でしょ? そんな女と僕はつき合いたいと思わない」島袋は吐き捨てるように言った。
「他の女性もそんな感じなんでしょうか……」
「20代で『スグ会いたい』タグの女性はほとんどそうじゃないかなあ。ほいほいそれに乗っかるオトコがいるから彼女たちもこういうサイトにどんどん登録するんでしょう。女性は無料だし」
「なるほど……。」美紀は躊躇いがちに続けた。「島袋さんはそんな女性を抱きたいとは思わないんですか?」
「だって風俗と同じでしょ? それって。お金払って、身体を満足させるだけ」島袋は肩をすくめた。「僕はたとえ身体の関係になるとしても、そのお相手とは、いろいろお話しして、精神的にも近づきたいと思います」
 美紀は感心して島袋の目を見つめた。「誠実な方なんですね、島袋さんって」
 島袋は頭を掻いた。「いや、かっこいいこと言ってますけど、僕だって若い子に誘惑されたらきっと簡単に騙されて、我慢できずに繋がっちゃって、お金巻き上げられるんじゃないかな」
「あたしもそんなオンナの一人かもしれませんよ?」美紀はいたずらっぽく笑った。
「それはない」島袋は笑った。「貴女は大丈夫です。間違いない」
 そして彼はジョッキを手に取り、うまそうにビールを飲んだ。

 二杯目の生ビールを三分の一ほど飲んだところで、美紀は思いきって島袋に訊いてみた。
「島袋さんは、今私と二人きりになりたい、って思われないの?」
 あおりかけたジョッキを慌ててテーブルに置き直した島袋は、突然顔を真っ赤にして言った。
「えっ? そ、そんな、マキさん、い、いいんですか? そんな、僕なんかと……。なんか、急展開……」
 美紀は目を上げて島袋の表情を観察しながら言った。「そのつもりであたしと会って下さったわけじゃないんですか?」
 島袋は眉尻を下げてひどく申し訳なさそうな顔をした。そして辺りを小さく見回した後、テーブルに身を乗り出して小さな声で言った。
「し、正直僕も男ですから、貴女みたいな魅力的な女性を、その、だ、抱くことができたらとっても嬉しいです。嬉しいですけど、」島袋はごくりと唾を飲み込んで続けた。「きょ、今日はお話するだけにしときます。でも貴女がその気になっていらっしゃるのなら、今度、会う時に……」
 島袋はうつむき、上目遣いで美紀をじっと見つめてその反応を窺っていた。
 美紀は微笑んで言った。「あたし、本名は美紀って言います。これからそう呼んで下さい」



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