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【スポーツ 官能小説】

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〜 日曜日・宣告 〜-1

〜 29番の日曜日 ・ 宣告 〜 




 太陽が真上に昇り、ようやく落ちるべく向きをかえた頃。
 背後に人の気配がした。 2人組じゃない。 私の頭上に影が伸びる。 二本足で立っている、短い制服をつけた影。 髪型と気配で、それが私の先輩だと分かる。

 泣きたかった。 叶うことなら、もう一度砂に埋もれるところからやり直したかった。

「起きているなら、返事をなさい」

「……ハイ」

 はっきりと、明瞭に答える。 石を咥えていれば、こうは言えない筈なのだ。 それなのにハッキリ答えられるということは、つまり、私は石を咥えていない。

 ほんの1分前に、舌からコロリと落してしまった。

 突然吹いた風がまきあげた砂が、私の鼻孔をくすぐったのだ。 ハエに耐え、ウンチに耐え、口に注がれたオシッコにも耐えてきたのに、最後の最後で砂にやられて。 ついクシャミをして、しまったと思った時には手遅れだった。 落とした石を拾おうとして、どんなに力を入れても首は曲がってくれはしない。 伸ばした舌も届きはしない。 あと1分後に先輩が来てくれると分かっていたら、窒息するまで息を止めてでも、クシャミをこらえてみせたのに……。

「……」

「……」

 舌の上から落ちた石ころに気づいたんだろう。 先輩は一言も喋らない。

 沈黙は私もおんなじだ。 頭が真っ白になって、悔しくて、申し訳なくて、辛くて怖くて何も言えない。 もちろん笑顔なんて夢のまた夢だ。 流れる涙を抑えられず、声をあげて泣かないのが精一杯だった。

「……」

 黙って私の頭上に盛られたウンチをはたく先輩。 どこからか持ってきたスコップで、ザクザクを砂を掘り起こし、私を砂場からひきあげてくれた。 体感だから正確な時間は分からないが、3時間近く砂に圧迫された筋肉は痺れていて、先輩が手を貸してくれて、ようやく地上に出ることができた。

「……」

 黙って歩きだす先輩。 『いくよ』とすら声をかけてくれない。 私も黙って四つん這いになる。 出来るだけお尻を振って歩こうとするも、消耗して力が入らないし、気力もでない。 フラフラしながらリードに曳かれ、どうにか先輩の横についていく。 元来た道を引き返すも、結局2人とも終始無言のままで、温かい筈の午後の日差しがやけに薄ら寒かった。

 鉄棒の脇にある水道からホースを引いて、先輩は私に水をかけた。 私はジッと動かず、先輩が水をかけるに任せる。 髪にこびりついた汚物は水の勢いであらかたとれたし、まとわりついていたハエもいなくなった。 臭いまでは取れなかったけれど、汚濁と砂にまみれた体に、冷たい水は心地いい。 

 砂場から寄り道することなく、私たちは寮に戻った。 時刻は2時になろうかという段階だ。 昼食をとるために戻ったのかと思ったものの、先輩の足取りは入口で止まる。 視線を上げれば重々しいドアに『寮監室』というプレートがあり、それを見た瞬間、

「……っ」

 脳裏に昨夕に寮長が言っていた言葉がリフレインした。

『先輩は、後輩をどうするかについて、結論をA級生もしくは寮監に報告してください』

 寮監室にいくのなら、用件は件(くだん)の報告以外有り得ない。 ここにきてようやく寮に戻った理由に思いが至った。 このまま寮にいられるのか、それとも追い出されてしまうのか。 もしくは私が想像すらしていない、全く別の処遇が待っているのか。

 私の運命がもうすぐ決まる……。

 ドクン、ドクン、ドクン。 

 床についた掌が鼓動で揺れる。 心臓が早鐘のように収縮、弛緩を繰り返す。 
 先輩は私のことをどんな風に報告するんだろう? 
 初日、学園に疲労困憊して情緒不安定だった私を見つめ、先輩は熱が籠った言葉をかけてくれた。 ならば、最初の段階では、先輩は私を大切に想っていてくれたのかもしれない。 しかし、それはたったの1度だった。 それからというもの、朝のご挨拶や食事、入浴、就寝と時間を共有する中で、淡白で事務的な会話ばかりしてきた。 つまり、時間が経過するうちに私の評価が下がったんだと思う。 今日だってそうだ。 砂場の『芸』にしても、22番には遠く及ばなかった。 その後与えられた指示にしても、最後の最後で躓いてしまった。 とどのつまり、何一つ満足にできないまま、一週間を過ごしてしまった。



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