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ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

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理解できぬ行動-2


***

 そう頑なに考えたカミルは、廃屋にいたアルジェントの配下達から、計画はほぼ全て自分の予測通りだったと聞いても、そのまま廃屋に留まった。
 裏社会に生きる強面のみならず、バロッコの妻までも脅迫に加わるならば、いっそうディーナに勝ち目はないだろう。

 しかし、すぐに来てもおかしくないはずなのに、ナザリオ達はなかなか姿を見せない。
 リアンの言葉が何度も頭をよぎったが、そのたびに馬鹿なと打ち消し、ジリジリしながら待ち続け……ようやく現れた一行に、ディーナが含まれていないのを見て愕然とした。
 それでも、近くの馬車にでもいるのではないかと、護衛たちに襲い掛かりながら考えたが、ナザリオの嘘が逆に決定打となり、愚かなのはカミルの方だったと知らしめた。

(ディーナ……っ!! なぜ来なかった!!)

 どうしてお前は、そんな馬鹿な真似をするんだと、いっそディーナに怒鳴りたい気分だ。
 陽の光に焼かれたカミルへ、自分の血を飲むように勧めてきた時と同じように。

 思えばあの時からだ。ディーナに愛されていると思ってしまったのは。
 間違いなく、カミルに好意を示してくれた。大好きだと告げて、自分から喉を差出してくれた。
 長い生の中で、嬉しそうに血を差し出されたのも、あんなに美味い血も初めてだった。牙を突き立てる苦痛をかき消す、魅了の魔法を己が使えることに、あれほど感謝した瞬間はない。

 けれど先日、夢うつつのディーナから、カミルに尽くすのは誠意ゆえと告げられた瞬間、一気に見る角度が変わった。
 考えてみれば、あの時ディーナは、カミルの苦しむ様を見ていられなかっただけかも知れない。とても優しい少女だし、自分を助けにきてカミルは焼けたという負い目もあったはずだ。
 すでに一度、カミルには抱かれているのだから、純潔を失う重みもなかっただろう。
 確かに好意は示してくれるが、それは……。
 ディーナはカミルに、大好きだと何回も言ってくれたが、愛していると告げたことは一度もない。その言葉が欲しいと、カミルへ望んだことも。

 ―― それなのに、なぜ……カミルの意地のために、自らの命を張るような真似をしたのか。カミルが誰に対して武具を造ろうと、自分の安全のほうがずっと大切だろうに。

 どんなに優しくしようと努めても、結局は身勝手に振舞ってしまう、いつも無愛想な雇用主だ。祭りに行きたいという、ささやかな望みにさえ気づけなかった男だ。
 ディーナにはもう……心からの真摯な愛を、それこそ全身全霊で素直に告げてくる人狼が、すぐ近くにいるではないか!

 もうカミルの元を離れても、一人になる恐れはない。リアンが暗殺者と知っても、ディーナは臆さず態度も変えなかった。
 自分を愛しもしない身勝手な吸血鬼など、アルジェントに手渡して、自分の幸せを追い求めたっていいはずだ。

―― どうしてそうしなかった!? お前が危険な目に会うくらいなら……俺は、それでも……っ!!

 考えれば考えるほど、解らなくなる。
 カミルは踏み潰したものに視線を向けることもなく、眉間に険しい皴を刻んだまま、素早くきびすを返した。
 逆に言えば、ナザリオたちが何事もなくここに来たということは、リアンもサンドラもディーナの元へ行けなかったということだ。

 自分が信じてやらなかったせいで、更に危険に晒してしまったディーナを、一秒でも早く助けなければ……。


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