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ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

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末路-3


 広い前庭を通り抜けて崩れかけた館に近づいた時、ふと夜風の向きが変わった。生臭い血臭がナザリオの鼻をつき、ほぼ同時に後から絶叫があがった。
 驚いて皆が振り向くと、月光の下でいつのまにか忍び寄っていた黒衣の男と、腹を切り裂かれた最後尾の護衛が倒れていく姿が見えた。護衛の手から滑りおちたランタンが、ヒビの入った敷石におちて砕け散る。

「な……っ!?」

 残りの護衛たちが一斉に武器を構えて斬りかかるが、黒衣の男が手首をにつけた刃をもう一閃すると、裂かれた喉から血飛沫を撒き散らして護衛がまた一人減った。
 そして黒衣の男は、鉱石木の枝が落とす影の中へ、スルリと飲み込まれるように姿を消す。サワサワと夜風が背の高い雑草をそよがせる中、低い静かな男の声が響いてきた。

「随分と待たせたものだな。こういう行いは、どの種族でも礼儀に反すると思うが、お前の観念では違うのか?」

「てめぇ……っ、武具師か!?」

 ナザリオを始め、護衛たちも暗い庭園のいっせいに目を凝らしたが、吸血鬼の姿はどこにも見えず、声もどちらから聞こえてくるのか、つかみ所がない。
 夜風にそよいだ雑草の茂みへ、一人の護衛が雄叫びをあげて斬りかかった……が、剣は雑草を斬っただだけに終る。
 わずかにそれた場所から、武具師は黒いマントを翻して現れると、無造作に脚を振り上げた。黒いブーツの先端に仕込まれていた刃が、護衛の顔面を縦に切り裂き、まるで南国の花が咲いたように強面が赤に染まる。
 続いて武具師が素早く腕を振るうと、ナザリオのすぐ左側にいた護衛へ、小さな銀色の光が幾つも襲いかかってきた。護衛はとっさに剣を振り回したが、細い糸は刃に断ち切られることなく、逆に剣を絡めとると、まるでパン生地のように細切れにしてしまった。
 おそらく糸は、鋼鉄よりも強いというアラクネの特殊繊維だったのだろう。
 武具師が再び手首を翻すと糸が舞い踊り、その先についた鈎針が、護衛の顔や手に突き刺さる。そこかしこの肉を容赦なくえぐられ、護衛の絶叫がこだました。

 そして武具師は再び、夜闇へと飛び込んで姿を消した。
 だが、逃げたのではない。確実にナザリオの近くに潜み、虎視眈々と命を狙っているのだ。

 吸血鬼という種族を軽く見ていたと、この時はじめてナザリオは後悔した。
 他種族との共存を拒むこの種族を、噂では色々と聞いていたものの、実際に会ったことはなかった。
 妙な能力は持っていても、腕力や素早さならもっと優れた魔物がいる。世渡り一つも上手く出来ない、馬鹿な種族だと思っていた。
 それでも自分達が最上だと言い張るなど、いっそ滑稽なほどの傲慢さだ。
 武具師も所詮は吸血鬼なのだから、厚遇して適当におだててやれば良いと、侮っていたのは確かだ。

「俺を呼び出したのはそっちだろうが。それよりもなぜ、ディーナを連れてこなかった?」

 冷や汗を滲ませたナザリオのすぐ背後から、ぞっとするような殺意の篭った声がかけられた。弾かれたようにナザリオは振り向いたが、やはり後に武具師の姿はなく、別の場所から声だけが再び届く。

「ここで待っていた連中に、お前がディーナを連れてくる予定だと吐かせたから、待っていてやったんだ」

「吐く……? 馬鹿をいうな、あの連中が簡単に……」

 ナザリオが反論しかけた時、館の崩れかけた二階窓から、奇妙な声が聞こえてきた。

「゛あッ、ア! ギ、ギもヂ、イ、イ゛ア……ヒ、ヒィッ……もッ、゛あ゛お、これ……っ、ギもチ、よシュ、ギ……もっと、締め……なん、でも……言う……アギィッ!!」

 壊れた窓枠からダラリと上体を覗かせた半裸の女に、ナザリオは眼を疑う。獣のように舌を垂らして喘いでいるのは、ここに待機させた配下のアラクネだった。
 同じ種族の魔物とはいえ、気風のいい姐御肌といった感じのサンドラとは、まるで大違いの女だ。

 妖艶な肢体で男をたぶらかしては、相手の身体に糸を巻きつけて殺すのが趣味という、壊れた性癖が原因で裏社会に流れ着いたこの魔物女は、吸血鬼のようだと陰で揶揄されるくらい、傲慢で高飛車な性格だった。

 そのアラクネが、乳房や太腿をむき出しにした半裸で、指からは糸を、口元からは唾液をだらしなく垂らし、白目を剥いて自慢の美貌を歪ませながら快楽に堕ちている。
 奇妙に揺れているその身体をよく見れば、まだ細く柔軟な鉱石木のツルが、彼女の全身に絡みつき締め上げているのだ。更には腹も、内側から押し上げられているかのように、不規則にボコボコと蠢いている。

 吸血鬼が、相手に強制的な発情を促す魅了の魔法を使うのは知っていたが、鉱石木のツルも操れることを、ナザリオはようやく思い出した。いや、承知してはいたが、大した能力でもあるまいとタカをくくって重要視しなかったのだ。

 体内まで鉱石木に犯されているアラクネは、絶え間なく絶頂の悲鳴をあげていたが、その口にもツル草が入り込んで声を封じられると、いっそうビクビクと身を引きつらせる。


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