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ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

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末路-4

「ここに鉱石木が豊富で幸いだった。魅了は異性の方が効きやすいが、あんな女に触れるのはごめんだ」

 冷ややかな声が、ナザリオのすぐ真後ろから聞こえた。

「くそっ!!」

 全身の毛を逆立たせて、振り向きざまに剣を振るったが、虚しく闇を斬ったに終る。
 残った護衛たちも武器を構えなおしたが、あきらかに先ほどまでの勢いを失っていた。特にアラクネの無残な姿は、彼らの気概を大幅に削いだようだ。
 新任のナザリオは、まだこの地で部下達からそれほど高評価を得ていない。組織の中で上下関係があるからこそ、従っているという感じだ。
 だからこそ、一日も早く結果を出そうと焦っていたわけだが。今の護衛たちからはすでに、ナザリオを置いて逃げかねないほど引け腰の気配が嗅ぎ取れる。

「相手は一人だぞ!!」

 自分の怒声が、それほど説得力を持たないのを、ナザリオ自身も承知していた。
 すでに自分達が来る前から、武具師は一人だったはずなのだ。なのに、拘置されているはずの武具師が自由に歩き回り、待機させていた部下のうち、一番腕がたったはずのアラクネは、こうして無残な姿を晒している。他の連中も死んだか、似たり寄ったりの目に会っているのは、一目瞭然だった。

「元締めのコイツを置いて逃げれば、他は見逃してやるぞ」

 暗闇の中から武具師がそう言った途端、脅えきっていた護衛たちはナザリオを突き飛ばすと、悲鳴をあげて散り散りに逃げ去っていった。

「待てッ!」

 尻餅をついたナザリオの前に、赤い瞳を怒りに滾らせた武具師が、陰の中からズルリと姿を現す。

(あ、あの婆ぁ! 何が、言う事をきくだと!?)

 欲をかいた自分を棚上げして、ナザリオはすでに始末を命じたバロッコ夫人を心の中で罵る。
 小間使いの娘を攫ったのは、間違いなく失敗だった。
 これほどまでに武具師が強く、一切の聞く耳を持たないほど激怒するなど、予想外すぎる。
 おまけに最大の誤算は……!!

(どいつもこいつも、イカレてやがる!!)

 最後まで折れなかった生意気な赤毛娘の顔が脳裏を過ぎ、ナザリオは歯軋りをした。
 虐待され続け、名を聞いただけで青ざめるほど服従心を沁みこまされた小娘が、あの状況で歯向かうなんて、一体誰が予想できる!!
 あの場で一番イカれてたのは、間違いなくあの小娘だ!!

 てめぇらには良い条件を提示してやったのに! まさか意地や信念なんて、お綺麗なものをほざくつもりか!? そんなもんじゃ、パン屑一つ買えやしねぇんだ!!



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