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ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

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収穫祭-2


 リアンにお祭りの憧れを言えたのだって、彼の話しやすい雰囲気もあっただろうが、単に話題の一つだったからだろう。
 数日前にリアンと雑談している時に、王都で開かれる建国祭の話を聞いたのだ。
 王都の賑わいや国内最大のお祭りなど、自分にはまったく想像もつかない世界の話に夢中となり、一度でいいからお祭りに行ってみたいと、殆ど無意識に口走ってしまった気がする。

 だから、リアンから収穫祭に誘われて仰天したし、自分が本当は祭りに憧れていることまで暴露された時は、恥ずかしさのあまり消えてしまいたい程だった。
 自分では何も言えなかったディーナに、カミルは呆れたのだろう。とても怒っているような顔をしていたから、駄目だと言われた時には少し落ち込んだものの、心のどこかで当然だと思った。
 なのにまさか、こうしてカミルと一緒に来られることになんて!

「ありがとうございます。旦那さま……」

 感激のあまり目を潤ませて、ディーナがカミルを見つめると、すぐ視線を逸らされてしまった。

「どこの雇い主も、祭りの夜には使用人に休みを取らせるんだろう? だとしたら、俺がこうするのも普通のことだ。お前を一人で祭りに行かせるのは心配だからな」

 素っ気無い口調だったが、やっぱり彼はとても優しいと、ディーナは思う。
 普通と言うが、ただの小間使いのために、自分が興味のない場所にまで付き合ってくれる雇用主など、普通はいないはずだ。

「――で、やっぱり邪魔をしにきたわけか」

 不意に、カミルが背後を振り返って、思い切り険悪な声音を放った。

「当然だろ? 言っておくけど、触らないって約束期限は、もう切れてるんだからな」

「っ!?」

 いつの間にか背後にいたリアンに、ディーナは目を丸くした。
 眉間の皺を深くしたカミルに、リアンも額を付き合わせる勢いで睨み返しているが、さすがに二人とも、この人込みの中で騒ぎを起こす気はなかったらしい。数秒睨みあった末に、フンッと互いに顔を逸らす。

「ありがとう。リアンの言った通り、お祭りって本当に素敵で夢みたい」

 ディーナはホッとしつつ、ふくれっ面のリアンにも、感謝を込めて礼を言った。

「ん……まぁ、ディーナが喜んでくれたなら……」

 リアンが顔を赤くして頭を掻く。そして、改めてディーナを正面から眺めた途端、慌てて口元と鼻を押さえつつ後ずさった。

「リ、リアン!?」

 また、あのよくわからない鼻血発作が起きそうになったのかと思ったが、リアンは鼻血こそ出さなかったものの、顔をまっかにして切れ切れに呻く。

「は、はぁっ……いや、その……はぁっ……ディーナが……すごく可愛いいから……やばい、どうしよう……っっ!」

 どうやら褒められているらしいと解り、ディーナが思わず頬を赤くすると、カミルが不機嫌そうな声をあげた。

「この変態小僧には、もう関わるな」

 そう言うが早いが、カミルに腰を持たれて、ひょいと小脇に抱えられてしまう。

「変……っ!? こら! 待てよ!」

 ディーナを小脇にかかえたまま、カミルは賑やかな大通りの中へさっさと歩き出し、その後を、リアンが大慌てで追いかけてくる。

「だ、旦那さまっ、歩けますから」

 手足をバタつかせてディーナが降りた時、雑踏の合間に美しいワインレッドのドレを着た長身の女性が、チラリと見えた。向こうの方でもディーナに気付いたようで、スラリと細く長い腕をあげて、大きく手を振ってくれた。

「サンドラ先生!」

 祭りの灯りの中から、軽やかなのに優雅な仕草で駆け寄ってくる蜘蛛女医に、ディーナも笑顔で手を振る。
 ここに住んでいる彼女が収穫祭にいるのは当たり前かもしれないが、この賑わいの中で会えるなんてと嬉しくなる。
 夜の街で、ランタンの灯りに照らされたサンドラは、昼に会った時よりもいっそう艶やかに見えた。

「ディーナたちも来てたのね!」

「はい! 旦那さまが連れてきてくださったんです!」

「う〜、最初に誘ったのは、俺なんだけど?」

 元気よく答えたディーナの背後から、リアンが不満たっぷりな声をかけた。

「あっ! そ、そうだよね! 私がお祭りに行きたがってるのを、リアンが言ってくれたおかげだよ。自分だけじゃ、きっといつまでも言えなかったもの」

 慌てて付け加えると、サンドラが面白そうに目を見開いた。そして、思い切り睨みあっているカミルとリアン、困惑顔のディーナを見渡して、楽しそうに笑いだした。

「あらあら……フフフッ、なんだか大変そうね」


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