投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

ディーナの旦那さまの最初へ ディーナの旦那さま 40 ディーナの旦那さま 42 ディーナの旦那さまの最後へ

複雑な心境-3


「……揉め事か。アルジェントの新任が、随分張り切っているらしいとは聞いた」

 カミルは相槌を打った。
 古代遺跡は危険だが、そこから発掘される、今では製造不可能な特殊素材や貴重な文献などは、どれも高く売れる。

 街の付近で双頭鼠があけた遺跡は、滅多にないほど大きな建物へと繋がっていた。
 それだけに得られる発掘品も多く、数ヶ月経っても訪れる探索者は増える一方だ。
 体力家業の探索者には男が多い。酒を飲み、賭場で遊び、女を抱く。
 彼らが増えれば夜の商売も賑やかになり、図らずもその賑わいは2組織の均衡を崩した。

 特に、アルジェントの支部で新任の責任者となった男は、この機に縄張りを一気に広げようと目論んでいるらしく、随分と強硬な手段をとりはじめた。
 ここ数ヶ月間は組織間の小競り合いが絶えず、昼の市街地にはまだ影響がでていないものの、闇通りの方は随分と物騒になっているそうだ。

 カミルは夜猫に所属しているとはいえ、闇通りに店を構えているわけでもないので、特に影響はない。
 せいぜい、組織の諍いがこれ以上白熱するようなら、ディーナを一人で買い物に行かせるのは止めようと思うくらいだ。

「まったく、ああいう連中にお行儀よくしろっていっても無理だし、商売繁盛には違いないけれど、気分は良くないわね」

 そう言って眉を潜めたサンドラは、どちらに所属する必要もないので、頼まれればどちらの怪我人も平等に診る。だから余計に忙しいのだ。
 もしも、彼女が両方の組織を診ることに文句をつける者がいたら、そいつは自分の狭量をたっぷりと後悔する羽目になるだろう。
 彼女の特技は治すだけではなく、その逆も大得意なのだ。

「……それはとにかく、ディーナちゃんを連れてきた理由は?」

 つい、すっかりそれてしまった話の矛先を、サンドラがやや強引に戻した。
 黒曜石のような目がキラキラと非常に楽しげに輝き、口元がムズムスしている辺り、どうせある程度は勘付いているに違いない。
 舌打ちをしたい気分で、カミルは口を開いた。

「ようやく、捨てる気になっただけだ」

「へぇ?」

 今まで、ディーナをサンドラに会わせなかったのは、裏社会の者にはできるだけ関わらせたくないからだと……そう思い込もうとしていた。
 本当は、ディーナが自分の元よりも、もっと居心地の良い場所を得てしまいそうなのが、怖かっただけなのに。

 サンドラはカミルよりもよほど人当たりが良く、面倒見の良い性格だ。
 実際、孤児院から引きとられた人間のルカも、彼女を家族も同然に慕っている。
 そして、初めてカミルがディーナと会った晩、互いの行動がほんの少し違っていたら、ディーナは今頃、サンドラの元で暮らしていたかもしれないのだ。

 そんな思いもあってだろうか。どうしても、ここに連れてきたくなかった。
 身勝手な欲望のままに振る舞えるのなら、ディーナを自分だけの物にしたい。
 いっそもう市場にも街にも行かせず、誰にも会わせず、この手の中だけで、ずっと囲い込みたい。
 昨夜、自分の手を握るディーナの安心しきった寝顔を前に、心底からそう思い、次にこう考えた。

 ―― 馬鹿か、俺は。どこまでクズになるつもりだ?

 夕べの苦い想いを噛み潰し、カミルは顔をしかめる。

「俺のくだらん独占欲なんか捨てて、アイツの人生に有利な札を一枚足してやるほうが、よっぽど有意義だと気付いてな。それで、ディーナとここに来た」

「あら、有利な札って私のこと?」

 サンドラがニヤニヤしながら、長い指を自分の首元に添えて見せる。

「今まで、散々されたノロケ話を聞く限り、あんたは何があっても、自力であの子を守りそうだと思っていたけれど」

「俺が生きている限りはそうするさ。だが問題は、俺が隣国の蛇王みたいに不死じゃないことだ」

 カミルは唸るように返事をした。


ディーナの旦那さまの最初へ ディーナの旦那さま 40 ディーナの旦那さま 42 ディーナの旦那さまの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前