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悪徳の性へ 
【学園物 官能小説】

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〜 個室(22番) 〜-1

〜 9号の寮 ・ 22号室 〜

 食堂から続く廊下をつきあたりまで進み、階段を上って三階へ。 手前から29号、28号と並んでいて、奥の部屋に『22号室』はあった。 私と、私の先輩になるB22番が、これから2人きりで夜を過ごす部屋だ。

 B22番。 第一印象は、お人形だ。 お人形といっても、西洋風のスラッとしたものではなく、座敷童子のような和製のそれだ。 おかっぱに整えた綺麗な黒髪がよく似合う。 私だって決して背が高い方ではないが、その私よりも一回り小柄なことも、和風な印象だ。 あとは少年のように手足がほっそりしていて、色が白かった。
 他の先輩方が概して大人びて見える一方、私の先輩は表情にも無邪気さがあった。 大人しそうな太い眉の下からパッチリした瞳が私を隈なく見つめていて、食事中も食べながらずうっと視線を感じていた。 顔は勿論、胸から股間、爪先まで、私と目が合うことに一切頓着せずに眺められたように思う。 私としては、品定めされているようで、居心地は芳しくなかったが、顔に出さずにやり過ごしたつもりだ。

 廊下の天井には薄い蛍光灯がチカチカしていて、いかにも暗い。 その暗さが私の未来を暗示しているようで、これからやっと眠れるかもしれないというのに、胸のザワザワがおさまらなかった。

 ガチャリ。

 先輩がドアノブに触れただけで、錠が外れる。 自動ドアなわけはないし、指紋のようなものでロックを開く仕組みなのだろうか。

「ここです。 どーぞ」

「……失礼します」

 促されるまま、私は先に部屋に入る。 
 学園の寮ということで、訳が分からないチューブやホースだらけの部屋を想像していたが、いい意味で裏切られた。 私が施設で最年長として暮らした部屋と、広さも内装も変わらない。 ベッドが1つ、机が1つ、棚がいくつかあって、それで御終いのシンプルな佇まいだ。
 
 ……あれ?

 1つしかない。 相部屋なのだから、私にも机やベッドがあてがわれるはずなのに、どうみても1組しか家具はない。 この後私の分が運ばれるのだろうか? それとも、タイミングを見て取りにこいというのだろうか? それとも……。

「ふうー。 あー疲れたっ!」

 私の思考は、ドアを閉めるなり発した先輩の元気な声にかき消された。 寮に入ってから、寮長も新入生も、誰もが感情が籠らない言葉ばかりを紡いでいたのに、いきなりだ。

「あーしろこーしろって煩くて、Aの連中がいると肩が凝っちゃいます。 ごはんくらい、フツーに食べさせてくれたっていいと思います。 どうせ見せしめにするなら、ぴちぴちな新入生を血祭りにあげろってんですよ。 さんざんイジメ倒した『ひな』たちを更にイジメて楽むなってんです。 新入生の罪は相部屋の罪……面倒くさいことは嫌いです。 あー疲れた疲れたっ!」

 びっくりする私を余所に、独り言を大きな声でつぶやくと、B22番の先輩は布団に倒れこむ。 それまで食堂で見せていた、一切私語をせず、統制がとれた行動とは全く違う。 考えてみれば自室で自然体をとるのは悪いことでないのに、いままでとギャップがありすぎたせいで、私は全く予想していなかった。 きっと、目をパチクリでもさせて、正面から凝視する不作法をしていたに違いない。 我に返ると、怪訝そうに先輩がベッドから見上げていた。

「なんですか? 『ひな』の顔に何かついてますか?」

「あっ、いえ、とんでもありません。 失礼しました」

「ていうか、『ひな』は一応先輩なんですから、まあ、そりゃあ、みんなよりはちっちゃいかもしれませんけど」

 まっすぐにみつめる黒い瞳。 虹彩が広がり、瞳孔が点規模に狭まってゆく。

「いつまでも見下ろされてると、ちょっぴりイラってしちゃいます」

「……! すいません!」

 寝転んだまま先輩が口を尖らせるまで、まったく気付く私は慌てて膝をおり、ベッドの前に正座した。 胡坐をかくわけもいかないし、体育座りも変だし、兎に角腰をおとさなければ。

「よっ、と」

 併せて先輩がベッドから身体を起こす。 ベッドの端に腰かけて、足をブラブラさせる恰好。 ちょうど私の顔の高さにベッドの縁(へり)があって、極端に短い制服のスカートごしに、先輩の持ち物が丸見えだ。 剃り跡もない無毛の丘で、こういってはなんだけど、イメージ通りだった。

「ちょっとー。 新入生のクセに、頭が高いってんです。 聞こえなかったんですか?」

「!!  す、すいません!」

 言葉遣いこそ丁寧ではあったけれど、明らかに声の温度が下がっている。 
 正座でもだめ、頭が高いとなれば土下座しかない。 頭をへばりつかせて、腰を浮かせ、足首を離して下半身で『ハの字』をつくる例の姿勢をとれということだ。 慌てて土下座して畳の匂いに包まれる中、私の体温が下がってゆく。 実際に下がるわけではなく、期待がすぼんでゆくと、身体が冷たくなるような気がするからだ。 
 B22番も学園側の人間だ。 私に明確な指示を出さず、敢えて濁しておいて『自分で考えろ』と丸投げするタイプだ。 必然、私は常に先輩の機嫌を伺い続け、言葉の意味を考え続けることになり、寮部屋でも緊張感から解放されない。 一日中緊張しっぱなし。 言葉では簡単でも、果たして現実に対応できるかどうか……。

 掲げたお尻の上から、パチパチと手を叩く音がした。

「わ。 土下座上手です。 でもそれだとお顔もおっぱいも見えないし、ひっくり返って全部見せてください」

「はいっ」

 顔に胸、それだけではないだろう。 私の持ち物も、肌も、臍も見渡して、つまり、先輩は私の身体を品定めしたいのだ。 私は仰向けになって、手は頭の後ろに、足は肩幅に開いた。 意識して起立第一姿勢を横になって再現した。 


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