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悪徳の性へ 
【学園物 官能小説】

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〜 個室(29番) 〜-2

「Bグループ生では、副寮長のB1番が一番偉い。 彼女はこの寮経験が長いから、私よりも各上だ。 『副寮長』と呼び捨てでいい。 一応私も副寮長になるけど、同期に選ばれただけの次点副寮長だ。 他のBグループ生といっしょに『B29さん』みたく、『さん』づけで呼んでもいいし、キミの番号と紛らわしいから単純に『先輩』でもいい」

「はいっ」

「私たちに質問していい、と寮長はいったけど、あれはウソだ。 質問は一切認めないし、反問もいけない。 教えられた内容は、どんな内容であっても、全身全霊で取り組め。 マスターベーションしろだとかも排泄の強要も、どんな指導であっても、真剣に誠実に真面目に従うこと。 指導を受けたらとにかく御礼をかかしてはいけない。 『ありがとうございます』でも『よろしくお願いします』でもいいから、指導は与えられるものじゃなくて、自分からお願いして頂くものと自覚する」

「はいっ」

「一週間の間、私はすごく酷い先輩だろうと思う。 細かく教えることもあれば、教えられないこともある。 敢えて教えないことだってある。 それでも一週間で、最低レベルまでは指導してあげる。 最低レベルに辿り着けたら、あとは君次第でどうにでもなるんだ」

「はいっ」

「学園で精神的、肉体的にキツイのは、断トツで最初の1週間だ。 ここさえ乗り切れば1ヶ月耐えられる。 1ヶ月耐えられれば、きっと1年乗り越えられる。 そうすれば学園を出ることもできるし、次の学年に進級もできる。 場合によったら飛び級で社会に出ることもある。 とにかく1年の間、一生懸命身体と心を鍛えたら、きっと、いつか、いいことがある。 絶対だ。 絶対にいいことがあるんだ。 意味が分からない指導にも、実はちゃんと目的があるんだよ。 わけわかんなくて、ただ虐められてるって思うだろうけど、そうじゃない。 今は分からないだけで、いつかきっと理解できる。 苦しんでいるのは君だけじゃないし、辛い思いをしたのも君だけじゃないから」

「は、はいっ」

 先輩が何をいっているのか、何を言いたいのか、正確には分からない。 
 それでも耳を傾け、瞳で見つめ合ううちに、怯えとは異なる感情で返事が上擦る。 きっと、最初の一週間、私は先輩に散々虐められるのだろう。 痛い思いも、辛い思いも、恥ずかしい思いも、いっぱい、いっぱい味わうのだろう。 そう宣告されているのに、心は悲しみで埋まってもいいはずなのに、心の底に不思議な温もりがあった。 今日を耐えれば、一週間耐えれば、一か月耐えれば、一年耐えれば、私にもいいことがあるのだろうか? ある、と呟いた先輩の瞳は、ウソやお為ごかしをいうソレではなかった。 苦しんでいるのは私だけじゃない――そうだ、私が歩いている道は、クラスメイトの道でもあり、先輩だって歩いた道だ。

「いまはどんなに苦しくて、涙がでそうにないほど辛くても、きっと、きっと大丈夫。 明けない夜はないし、時間はすべてを解決してくれる。 君に出来ること以外は、当たり前だけど、やっぱり出来ない。 けれど、私たちに出来ることはきっと君にも出来る。 考えるのが辛いなら、考えなくていいよ。 そういうのは全部後回しにすればいい」

「ぐす……はいっ!」

 心なしか、先輩の言葉に熱を感じる。鼻の奥が熱くなる。 先輩の言葉は、単に同室の後輩に寮の心得を説いているに過ぎないのだろうけれど、何故か私は励まされたように感じた。
 逆にいえば、私には励まされたと感じる心が残っている。 学園では誰も彼もが私を虐める立場と思っていた。 先輩もその一人だと思っていた。 それでも、これだけ温もりを感じさせる人だっている。 絶望が私の早とちりとすれば、私の未来は本当のところ、どうなんだろう。

「涙を流すのは勝手だけど、泣くのは禁止。 俯いてもダメ」

「ぐす……ぐすっ、すん」

「返事は?」

「……はい」

 昂ぶってばかりはいられない。 先輩の声がトーンを落とし、私も嗚咽を嚥下する。
 鼻声な私の顎を、先輩の爪先がもちあげた時、時計の針は8時55分を指していた。

「そろそろ時間だ。 これから入浴する。 風呂の作法は道すがら教えてあげるから、ついておいで」

「はいっ」

 学習机の下から取り出した竹籠を小脇に抱え、先輩は私の顔を軽く蹴り上げた。 つられるようにたった私を尻目に部屋をでる。 風呂の作法……どういうものか見当がつかないけれど、先輩は『全身全霊で取り組め』といった。 あれはきっと、この瞬間から始まっているのだ。 

 薄暗い廊下に呑み込まれる先輩と私。 
 先輩の背中が、これまでよりもグッと近づいたような、そんな気がした。


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