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ディーナの旦那さま
【ファンタジー 官能小説】

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5 変わり者の吸血鬼-2

 ***

 故郷を離れた原因は、カミルの価値観が同族たちと違いすぎていたからだ。
 ようするに『変わり者』というわけだ。

 美を重要視する吸血鬼らしく、カミルとて昔から美しいものは大いに好んだが、仲間内の容姿だけが美の基準とは思えなかった。
 この世に存在する多数の種族、数多の文化に触れ、それぞれが違う独特の美しさを感じたいと思った。

 そこで故郷を離れ、鉱石ビーズを作って路銀を稼ぎながら、世界中を歩き回った。
 覚悟はしていたが苦難の多い旅だった。
 実際に何度も死にかけたし、いっそ記憶を消したいほどの目にあったことも、一度や二度ではない。
 その代わり、得たものも大きかった。
 多くの種族と交流し、想像もしなかった数々の景色を目にし、故郷にいては生涯知り得なかった様々な知識や技術を吸収した。東と西の魔法を合わせる魔武具の作り方を思いつけたのも、あの旅があってこそだ。
 吸血鬼だけが至上生物ではなく、他種族にも優れた部分はあるのだとも痛感した。

 何よりも大きな収穫は、注射器などで一度、人体から他の容器に移された血液ならば、直接噛み付く時のように魅了の魔法が吸血鬼自身に伝染してしまい、人間を陵辱するような真似をしなくて済むと知ったことだ。
 ただし難点として、どんなに新鮮な血液でも途端に不味くなるのだ。
 腐った魚の内臓よりも悲惨な味で、丸一日は寝込む。

 世界各地を回った末に故郷へ戻り、黒い森の吸血鬼たちに、自分の見てきたものの素晴らしさを話した。
 皆もこれを知って理解すれば、他種族とももっと調和できるようになり、吸血鬼の世界はもっと広がると思ったから。

 いくら優れた能力や長寿をもっていても、それで自分達だけを至高と強がって殻に篭るなど、それこそ美しいとは思えない。
 吸血鬼たちの狭い世界を、少しでも広げたかった。

 ……しかし、黒い森の吸血鬼は、誰一人としてカミルの話に興味を示さなかった。
 なぜ自分達が下等な種族にへりくだらなければいけないのかと、不快を露にする同族たちに、そういう意味ではないと何度も説明したが、聞き入れてはもらえない。

 そもそも吸血鬼という種は、同じ地の泉で生まれた吸血鬼だけを完全な同族とみなし、他の泉の吸血鬼たちさえも遠のける。
 そんな状態で、他の種族を受け入れさせるなど、そもそも無理があったのだろう。

 結局、カミルは徹底的に保守を貫く同族を見限り、完全に故郷を捨てた。
 そしてこの地で、魔道具師としてひっそり生きていくことを選んだのだ。


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