dream・road〜scene-2nd-1
ここはアメリカ、ニューヨーク。
港近くの公園で、船着き場に停泊した観光船を眺めている一人の少年がいた。
少年の名は、御堂 龍矢(みどう たつや)。ボクシング王者を目指し、単身アメリカに渡ってからもう一年を迎えようとしていた。
(早ぇな…)
公園を後にしながら龍矢は、今までのことを思い出していた…。
子どもの頃に描いた夢を追い掛けるために、龍矢はアメリカに渡った。
夢への道も開き始め、様々な経験が彼を成長させてきた。
だが、現実はそう甘くないことも思いしらされた…。
龍矢は仕事場のカフェの扉を開けた。まだ開店前なのだが、店の中には最近のジャズナンバーが流れ、いつでも開店出来る状態になっている。
「おうタツヤ、怪我は大丈夫なのか?」
グラスを拭きながら、マスターのダニーが龍矢に問掛けた。
「あぁ、もう大丈夫だよ。明日からは仕事にも出られる」
「そうか。ならいいが…最近調子悪いのか?」
「…いや、そういう訳じゃないんだけどさ…」
ダニーが龍矢に聞いたのはボクシングの調子についてだった。
八戦六勝二敗五KO…。
デビュー戦から今までの戦績を見ると、KO率八割以上ということもあり十分強者に見える。が、最近は二戦連続で判定負けが続いていた。
龍矢自身、決して不調というわけではなかった。むしろ一年前よりも体は鍛えあげられ、筋力も敏捷性も格段に上がっている。
「んじゃ、また明日から来るよ」
「おう。気を付けろよ」
ダニーの店を出て、龍矢はロードワークの時に通る公園へとやって来た。
おもむろに腕を上げ、シャドーボクシングを始める。
切れのいい拳の音を出しながら、龍矢は最近のことを思い出していた。
《しばらくジムには来なくていい…》
試合の翌日、ジムでトレーナーのミゲルが出した言葉は、龍矢に少なからずの動揺を与えた。
「な、なんでだよミゲル!」
「…自分で考えろ…」
ミゲルはそう言い残すと、ジムをを出ていってしまった。
ジムトレーナーでもあるミゲルの命令は龍矢にとっては絶対だった。
龍矢はデビュー戦から、ほぼ一ヶ月あるかないか程のハイペースで毎試合を消化してきたのだ(現在と違い、昔は試合間隔が無茶苦茶なこともあった)。
常人では考えられないようなハードスケジュールは、知らずのうちに龍矢の体にもダメージを蓄積させていた。