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爛れる月面
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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1.違う空を見ている-15

「ああ、冷静に考えたら、スゲェことだよ。そこはマジで尊敬する。……、……、もう、酔っぱらいついでに聞いてみたいんだけどさぁ……」
「なに?」
「……、……お前ら、エッチどうしてんの?」
「聞きたい!」
「言うかっ!」
 残ったワインを飲み干して立ち上がった。
「奥様、どちらへ?」
「トイレ」
 個室を出て行く背中に、
「言うか、ってことは、してる、ってことですよねー」
 という紗友美の声が聞こえた。


 あれ、ちょっとヤバいかな。
 トイレから戻る廊下でフラついて壁に手を付いた。早田の昔話のネタにされて勢いでワインを飲み過ぎ、紅美子の酒量を随分と超えていた。
 個室に戻ると、井上が一人でワイングラスを傾けていた。料理の皿は片付けられており、紅美子と井上の前のグラスだけだった。二人いた店のスタッフも最早居ない。
「早田……、は?」
「先に帰ったよ」
「……ウチの光本は?」
「分かるだろ?」
 自分を散々ネタにして笑っておいて、いい感じに二人で消えられたことが癪で、ごく自然にダンッと音を鳴らしてパンプスを床に打ち付けた。だが、酔いが回っていたからよろけてドアにつかまる。
「大丈夫か?」
 井上が笑いながら紅美子の様子を見ている。あいつら、と苛立ちながら席に戻るとカバンから携帯を取り出した。ロックされた画面に徹からのメッセージが来着していた。
『まだ飲んでるの? 月曜日だからあまり飲み過ぎちゃだめだよ』
 飲み過ぎてしまいました、と心の中で徹に謝りながら、携帯のアドレス帳を開く。
「どっちにかけるんだ?」
 指で画面を操作している紅美子を見て、悠然とワイングラスを傾けながら井上がきいた。
「早田の番号は知りませんから」
「やめとけよ」肩を揺すり、口髭を傾けて井上がもう一度笑った。「あの子は喜んで追いていったんだ。スキップしそうなほどにね」
 紗友美の携帯番号まで開いていたが、しばらく目を細めて井上を見ると、溜息をついて携帯を脚の上に伏せた。
「水、頼んでおいたよ」
 紅美子の席の前のグラスには水が注がれている。遠慮無くそれを一口飲んで、
「ありがとうございます。……まだ、飲んでらっしゃるんですか?」
 と問うた。
「……君たちの話が面白すぎてね。僕はいつもより飲んでないな」
「喋っていたのは、殆どあなたの部下ですけど」
 アルコールのせいで、取引先相手に失礼な言いぶりになってしまうが、正す気にもなれなかった。まあいいや、これで明日以降、紗友美がうんと働いてくれれば――。とにかく今日一日が終った、あとは徹にメッセージを送ってやって、家に帰って寝るだけだ、そんな気分に入り始める。
「灰皿、頼むかい?」
「……禁煙ですよね、ここ」
「禁煙だ」グラスを回してから、もう一口飲みながら、「でも、僕が頼めば持ってきてくれると思う」
 何自慢? 自分なら店に圧力をかければ、そんなことも容易い、と言われているようで紅美子は眉を顰め、
「結構です。……帰りませんか」
 と言った。どうやって帰ろう。路線図を思い浮かべたが、そもそもここからの最寄りの地下鉄駅が分からなかった。
「大丈夫か? ずいぶんフラついてるけど」
「大丈夫です」
 紅美子は背筋を伸ばした。「えっと……。お金は?」
「もう払ってあるよ」
 井上は涼し気な表情で言った。
「おいくらですか?」
 紅美子はバッグから財布を取り出しながら尋ねた。
「いいさ。君みたいな子に払わすわけにはいかない」
 子、などと馬鹿にされたような気分になって、
「いいえ。こういうのイヤなんです。割り勘でお願いします」
 酔いで仮面を被るのを忘れてしまい、ムキになった表情になってしまったのが自分でも分かった。
「……変わり者の彼氏に申し訳ない? 奢られたら、デートしたみたいに思えるんだろ?」


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