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隣人
【その他 官能小説】

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その(4)-2

 翌朝になってもゆうべの結衣の温もりが小山内の体のあちこちに残っていた。清純ささえ漂わせた彼女があられもない姿態で彼を求め、すべてをさらけ出した。それに応じて小山内ものめり込んだ。
 あれほど女体が燃えるのは長い間夫婦の関係がなかったからだろう。持て余していた性の欲望が一気に噴き出したということだ。

 それにしても、素晴らしく体の感度がいい。とても敏感で、どこに触れても反応して悦んだ。それに、優しい。彼に対しても十分な愛撫をほどこしてくれる。昨夜、風呂から出たあとなど全身に舌と唇を這わせてくれた。
(意識が遠のいた……)
舌を絡める唾液まみれのキスから始まり、乳首、そして足の指まで口に含んで舐め回した。極めつけは股間である。肉棒に行き着く前に、しゅぱしゅぱと袋を吸っては口中で転がし、さらには尻穴も舌先でなぞってきた。
 さんざん昂ぶった末に滑らかに含まれた亀頭。
「くく!」
堪えても思わず声が洩れた。

(あんな女と暮らせたらどんなに毎日が楽しいだろう……)
朝食のパンを食べていると亜希子が起きてきた。朝はほとんどトーストと目玉焼きで、小山内は自分で作っている。

「ゆうべ遅かったのね」
「ああ。ちょっと、飲みに行ってね」
亜希子は欠伸を噛み殺しながら乱れた髪を手で梳いた。
「12時過ぎてたでしょう」
「そうだな、過ぎてたかな」
ベッドにそっと入った時、彼女は寝ていたと思ったがぼんやり目覚めたのだろうか。
「お風呂入ってきた?」
「え?」
「なんか、そんな匂いがしたわ」
言葉に詰まりかけて、
「飲んだあとに後輩がサウナに行くっていうんで、付き合った。一人暮らしのやつだから帰ってからだと面倒なんだって」
「ふうん。でも、飲んだ後ってサウナは体に悪いらしいわよ」
「そうだな。まあ、滅多に行かないから」
さりげない返事をして早々に食事を切り上げた。

 家を出て、ほっと息をついた。
(風呂上がりのニオイ……)
意外と残るものだと知った。気をつけなければ……。

 ゴミ集積所に結衣の姿を見つけた。小山内はあえて目を合わさず、しかし出来る限り彼女の近くをゆっくり歩いた。
「おはようございます」
結衣の言葉に軽く会釈をして、
「おはようございます」
行き過ぎかけ、足を止めて視線を合わせた。結衣の目が呼んでいた。周りを見て近づくと彼女の手が伸びて小山内は小さな紙片を受け取った。

 駅へと歩く道々メモを見る。
『すてきな夜をありがとう』
昂奮が甦り、彼女の肌の匂いが思い出された。
 メモを細かく千切ると歩きながら少しずつ捨てた。

 携帯の番号もアドレスも教え合っていたが、緊急の時以外はメールや電話はやめようと昨夜話し合った。メモなら捨ててしまえばいい。
「いつでも、来て」
結衣はそう言って縋ってきた。
 日曜日以外は彼女一人だ。
 いつでも、とはいっても毎晩というわけにはいかない。仕事もけっこう残業があるし、罪悪感はなくても亜希子に疑念を持たれるのは避けなければならない。
 だが、いつでも来て、というのは嬉しかった。
(自分の家が新たに出来たようなものだ……)
そこには自分の好みの女が待っている。
(結衣……)
小山内は毎日が浮き立つ想いであった。

 小山内は何事にも慎重な男である。
(彼女に溺れたい……)
いつでもいいと結衣は言っているのだ。セックスはしなくても立ち寄って抱きしめて、話しをすることもできる。その点では自由なのに、何とか抑制した。
(わずかな油断と慢心がミスを招く……)
公務員という職業柄というより性格が小心であった。

 亜希子が不審を感じている様子は見られない。結衣と関係を持つようになってから亜希子を抱いたのは一度だけである。何度か求められたが疲れているとやんわりと拒否した。
「最近してないのよ」
彼の股間をまさぐってきても寝たふりをした。
「もう……」
妻はふてくされて背を向ける。
 痛快であった。
(隣で可愛い女を抱いているんだ。大切な精力だ)
それに、結衣を知ってから妻の体にほとんど女を感じなくなっていた。


「こんど、一泊できない?」
ほんのり顔を赤らめて結衣が言ったのは次の週のことである。田之倉が店の常連と旅行に行くのだという。
「来週の土曜日から行くって言うの。年に一度か二度、いつも気まぐれ」
土日と留守になり、帰りは月曜になる。
「だから……」
結衣の目は小山内を捉えて離さない。二人だけの淫靡な時間を心おきなく過ごしたい。彼に訴える想いが眼差しから燃えるように伝わってきた。

 むろん、小山内の心も熱をもった。彼女とゆっくり一夜を共にする……。
(隣人の人妻……)
願ってもない話だが、あまりに突然なのですぐに言葉が出なかった。
「だめ?」
「いや、だめじゃない。嬉しいけど……」
「奥さまが気になる?」
「それはない……」
が、関係をもったことだけでも大それたことなのに、夫の留守に泊まり込むのはさすがにためらいが先立った。しかし、
(同じことか……)
もう肉体関係はあるんだ。いまさら泊まることにこだわっても意味はないか……。
 それにしても結衣の大胆さに内心驚いた。

 出張という口実で家をあけることはできる。実際、年に数回、視察等で地方へ行くことはある。その点、問題はないが……。
 やはり隣室に二日間閉じこもっているのは落ち着かない。すると、結衣が身を寄せてきて言った。
「どこか、温泉でも行きましょう。ね?」
「温泉?」
「誰にも気兼ねなくゆっくりしたいわ」
「ご主人、大丈夫かな……」
「旅行の時は電話きたことないわ」

(誰かに見られはしないだろうか……途中、トラブルにでも遭ったら……)
考えは巡っていたが、小山内のためらいは魅惑の夜の妄想に消えていた。

 


 


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