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野郎共のワールドカップ
【スポーツ 官能小説】

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終戦-3

白装束のフック監督と刀を持ったサポートメンバー4人。
血が飛び散らぬように部屋を布で囲った。
フックは静かに正座している。
十字架を首にぶら下げ静かに祈りを捧げている。
俺達は言葉を発しない。
静かに、主君の最期を見送るだけだ。
覚悟は決めたが、いきなりの展開に身体が震えてしまう。
他の3人を見ても一様に恐怖に身体を震わしている。
本当に、やるのか?
誰も言葉を発しないが表情でわかる。
未だに戸惑いが残る。
だが、そんな空気を感じ取ったのか祈りを終えたフック監督が一言発する。
「ペルファボーレ」
そして目を閉じる。
イタリア語で何か言ったが意味は良く分からない。
準備はできたという事だろうか。
「監督、最期に良い残すことはありますか?」
サムライには辞世の句という文化があるが、彼がそこまで理解しているかはわからない。
だが俺達には主君の生を見届け、送る役割が託されている。
最期の一言は聞いて残さなければならない。
そして、その問いかけに対しフック監督が一言。
「ワタシ、ニホンゴワカリマセーン」
これが彼の最期の言葉になった。
言葉を聞いた角田が躊躇いなく刀を振り落とす。
フックの頭と体は切り離される。
辺りに血しぶきが舞う。
こうして代表を指揮したイタリアの名将、フックのキャリアは終焉を告げた。

フックの遺言により、その死は秘匿とされた。
知っているのはサポートメンバーと通訳、そして偽フックだけ。
代表メンバーやコーチら、そしてメディアは知る由がない。
フック監督の遺体はブラジルの業者に処理してもらった。
彼らは電話一本で片づけてくれ、情報を他には漏らさない。
日本では完全に裏稼業の話だが、ブラジルでの需要は多く簡単に見つける事ができた。
フックの最期の言葉はあんまりである。
あのタイミングは無いと他のサポートメンバーは思っていた。
しかし、大きな汚れ仕事をした角田を責める気持ちは無い。
むしろ感謝したいくらいだ。
だが、フック監督は本当に死を望んでいたのだろうか。
今となっては、確かめることはできない。
そして代わりに日本代表の命運を握る事になった偽フック。
彼の素性は誰も知らない。
ただただ、いつも陽気に笑っている。
フックの死を隠し通す事が出来れば、代表もリラックスムードでプレイできるかもしれない。
監督の最期の策は、彼の死を知る者達にかかっている。
遺志を無駄にしないためにも託された仕事をこなさなくては。

そんな折、真一さんから電話がかかってきた。
代表の主力メンバーが話し合った結果、今晩は決起パーティーを開くつもりらしい。
場所と時間は決めたので他のメンバーに知らせてほしいとの事だ。
電話の口調からは真一さんも元気な様子だ。
そしてフック監督に指示された仕事についても聞かれた。
心の奥で動揺したが、簡単な仕事なのでもう終わったと、俺は返答する。
それならばと真一さんは街に出てきて合流しないかと言ってくる。
少し考えたが、宿舎に居続けるのも辛いので話に乗る事にした。
他のサポートメンバーも誘い、イトゥの街に出る。

真一さん達は地元の人達とサッカーをしていた。
結局休日をもらってもサッカーをしている。
そう考えるとちょっと微笑ましくなった。
ブラジルでは年齢を問わずサッカーを楽しんでいる。
こうして草の根レベルでサッカー文化が培われているんだ。
俺達も飛び入りで参加する。
コテンパンにやられる。
子供も年配の人もみんな悉く巧い。
顔を真っ赤にしてボールを追う。
そして派手にすっ転ぶ。
それを見てみんな大笑いだ。
俺も照れくさくて笑ってしまう。
異国の人が来てもすんなり受け入れる事ができる懐の深さ。
サッカーが持つ魅力を改めて感じた。



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