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透明な滴の物語V
【同性愛♀ 官能小説】

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黒い雨雲-7

「心配かけてごめんね。でも、もう大丈夫。たまに高熱を出すんだけど、この子くらいの歳には良くあることなの。でも、親はそのつど心配なのよ」

交差点の信号が赤になり、前を走るクルマのテールランプから赤い光が鮮やかに放たれた。
聡美のクルマは静かに停止した。
ワイパーがフロントグラスの雨を払うが、すぐに雨の斑点模様で視界が遮られてしまう。
雨脚がかなり強くなってきた。

聡美はルームミラーに映る後ろの親子をのぞいた。
佐和子は胸に我が子を抱いていた。
琴音は疲れているのか、眠っているように見えた。
母親の顔は、大事に至らなかった娘に一安心した柔らかな表情をしていた。
小さな娘には、母親の胸が一番安心できる場所なのだろう。
安心して眠りに落ちることができる場所なのだ。
聡美には、そんな琴音の気持ちが手に取るように分かった。

ルームミラーを見る聡美の視線は一点に集中し、透視するような力がこもっていた。
(お医者さん、怖かったよね…)
聡美は心の中で琴音に声をかけた。
(お母さんの胸のなかが、いちばん落着けるよね…)
聡美の心の中で凍結していた何かが溶けだす予兆がした。

後ろから催促するクラクションの音が短く聞こえた。
その音で聡美は我に返った。
すでに信号は青に変わり、前のクルマはいなくなっていた。
聡美はブレーキにのせていた足を離すと、眠っている琴音に気づかいスムーズにクルマを発車させた。




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