dream・road〜scene-1st-8
(まいったな…これじゃ渡せねぇ…)
龍矢が思案に暮れていると、今度はマリアが口を開いた。
「タツヤっ…ごめっ…なさい…」
「…なんで謝るんだよ?俺マリアに何かされたっけ?」
「ボク…ボクが『勝って』…なんて無責任なこと言って…ボクシングがあんなのっ…だなんて知らなくて…」
(そういうことか…)
どうやら龍矢の怪我は自分のせいだと思っているらしい。
龍矢はそんなことは微塵も感じていなかった。この道で夢を叶えるには、多少の怪我は仕方ない。
それに、今日の相手も打たれこそしたものの、龍矢にはまだ余力が残っていた。
龍矢はマリアの顔を両手で優しく包み、額を合わせた。
「別にマリアのせいじゃねえよ、そんなの」
「だって…タツヤ痛そうだもん…」
「だから、大丈夫だよ…とりあえず泣くのを止めてくれ」
マリアの頬を流れる涙を指で優しくすくいとる。
時計は、もう十二時を回っていた。
マリアが泣き止んだ後、時計を確認した龍矢はテーブルに置いた紙袋を取り、マリアに手渡した。
「なに、これ…?」
「いいから開けてみろって」
龍矢に促され、マリアは紙袋の中身を確認する。そこには、片手にのるくらいの紅く煌めく折り畳み式の手鏡が現れた。
「うわぁ…!」
「裏側を見てみな」
そう言われ、手鏡の裏側を見ると立体的な蝶の模様が入っていた。
「紅い色がマリアに会ってるなあと思ってさ。あと蝶の模様はマリアが舞台で羽ばたけるようにおまじないだ」
「これ、高かったんじゃ…」
「ファイトマネー使ったから大丈夫だよ」
龍矢の一言にマリアは驚いて口を開いた。
「そんな…ダメだよ!自分のために使わないと!」
「別に今は金必要ないからな。それに、バースディプレゼントにはぴったりだろ?」
「だけど…」
自分のために金を使ってくれた後ろめたさが残るのか、またマリアは口を開こうとしたが龍矢が先に口を開く。
「俺は、お前にはいつでも笑っていてもらいたいんだ。楽しくいてもらいたいんだ…。だから、もらっとけ」
「タツヤ…」
「お前の夢は、俺が応援する。だから…俺の夢を、応援してくれないか…?」
暗くても龍矢の顔が赤くなっているのがマリアには分かった。
マリアの胸の中に宿ったもう一つの夢…それは龍矢と一緒にいること。
マリアは再び龍矢に抱きついた。
「は…ハッピーバースディマリア…」
「サンキュー、サンキュー、タツヤ!」
マリアは顔を上げると、龍矢に優しくキスをした。
「……っっっ!」
恥ずかしさに固まる龍矢の胸に顔をうずめる。