dream・road〜scene-1st-7
レフェリーが相手に駆け寄り、次の瞬間に両手を頭上で交差した。それは戦闘続行不可能の合図…。龍矢は相手をノックアウトしたのだ。
観客たち試合前の罵声ではなく、拍手と歓声を龍矢に贈っていた。
「やった…」
そう呟くと身体中に喜びが突き上げてきた。
「…っしゃあぁ!!」
龍矢は両手を天井に振り上げ勝利の雄叫びを上げた。
御堂 龍矢
第2R17秒KO勝ち
マリアは自分のアパートに帰っていた。電気もつけずにベッドの上で膝を抱え、鬱々とした気持ちになっていた。
「タツヤ…」
マリアは試合を最後まで見ることが出来なかった。なぜ、あんな殴りあいを人々は面白がって見られるのだろう…。
あんなことを何回もしたら体を壊すのは目に見えている。
マリアは怖くなった…。いつかタツヤの身に何かあったら。
昨日まで「勝って」などと無責任な言葉を言っていた自分を憎く思った。
「タツヤ…タツヤぁ…」
試合はどうなったのだろう。もしかしたら何かあったのかもしれない。
「帰って…帰って来てよっ…タツヤぁ…」
時計の針はもう十二時を回ろうとしている。
(最悪な誕生日…)
マリアがそう思った時だった。
コン、コン…。
控え目な音で入口の扉がノックされる。この、聞こえるか聞こえないかのようなノックの仕方はマリアは一人しか知らない…。
急いで鍵を外し扉を開けると、そこには洒落た小さな紙袋を片手に持つ龍矢が立っていた。
「何先に帰ってんだよ。ってか電気くらい付けろよ…」
龍矢が無事だった…。マリアの心に安堵が広がる。そして、その思いは体に表れた。マリアは龍矢に抱きついた。母に甘える子どものように。強く、強く…。
「なっ、おい、マリア…」
「タツヤっ…タツヤぁっ…!」
龍矢は泣きじゃくるマリアをなだめながら、部屋へと入っていった。
あえて電気は付けなかった。あまり人の泣き顔は見たくないし、マリアも見られたくないだろうと龍矢は思ったのだ。
ベッドにマリアを座らせ、近くのテーブルに紙袋を置き、から椅子だけを取り龍矢も座る。
とりあえずマリアが泣いている訳が分からないので、龍矢は口を開いた。
「…なんで泣いてんだよ」
「っく…ふ…タツヤがぁ痛そうでっ…怖く…なってっ…」
「こんなん、どうってことねぇよ。ビンで頭ぶん殴られたって大丈夫なんだぜ?試合にも勝ったしな」
あえて少しおどけた口調で言ってみたが、マリアが泣き止む気配は一向にない。