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dream・road
【青春 恋愛小説】

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dream・road〜scene-1st-4

だが、もし龍矢の身になにか起こってしまったら…。そう考えるだけで不安で涙が出てきそうになる。

ボクシングなんて本当はやってほしくない。ただ、龍矢がずっと元気でいてくれるなら…。
それは、少女の心に芽生えた一つの願い。
しかし、その願いは絶対に叶わないことも少女は知っていた。

龍矢には夢しか見えていないのだ。自分の身とか、平和な暮らしだとか考えていないのだ。
…マリアの頭に、自分が風邪を引いたときのことが思い出された。

龍矢が仕事先の先輩に見とれている様子が面白くなく、龍矢に悪口を吐いた後、ふりしきる雨の中一人公園で空を見上げていた。
涙は雨と混じり、自分の気持ちはまさに空にそびえる雲のように暗鬱としたものだった。
案の定一晩雨に打たれて風邪を引いたマリアを、龍矢は暖かく看病してくれた。
寝るときに繋いでくれた手の温もりを思い出すだけで、マリアは胸が熱くなった。

なぜあの時あんなに怒ったのか。なぜ、龍矢のことを考えると胸が熱くなるのか…。

簡単なことだ。マリアは龍矢に惹かれているからだ。龍矢と一緒にいられれば、嫌なことも悲しいことも忘れられ、楽しさや嬉しさは何倍にもなる…。舞台のスターになるという夢の他に、少女にはもう一つの夢が出来ていた。

「神よ…勝てなくても構いません。だから…どうかっ…タツヤの身を御守りください…」

朝焼けが始まった空に、マリアは膝まずいて祈りを捧げた。



七月六日…太陽が日差しを弱め始めた頃、龍矢はホールの控室にいた。
黒に銀のラインが入ったトランクスに、黒のボクサーシューズ。黒のグローブに黒髪…。肌以外は黒づくめという言葉がぴったりである。

「ボーイ、緊張してるのか…」
「心配するなよミゲル、そんなタマじゃねぇ」

ミゲルは龍矢のグローブに手を置くと、静かに語り始めた。

「いいか…相手の心の牙を折るんだ。二度と自分の前に立ちはだからぬ様に…」
「相手の想いを砕くには、自分の命を賭ける…だろ?飽きるほど聞いたよ」

と、いきなりドアが開き、スタッフが龍矢に話し掛ける。

『準備を…』

龍矢は腰を上げ、目を閉じた…。
瞼の奥に様々な人々が浮かんできた。
ダニー、ミゲル、ジムの仲間や、近所のガキたち…レイラ…。

(タツヤ!)

マリアの顔が頭に浮かび、龍矢は口元に不敵な笑みを浮かべた。

「勝てるな…」

そう言いながら、リングへの道を歩き始めた。



一階席の中央部分に、マリアとダニーは腰を下ろしていた。
今回はメインの試合が人気だからか、前座の試合が始まる前から客は大入りである。


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