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渚 一景
【その他 官能小説】

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黒い瞳-2

「コンコン」
振り向くと少女がノックの真似をして笑っていた。
右手を広げて押し出してきたのはハイタッチということらしかった。音がするほど手を合わせた。

「来てくれたのね」
「うん……」
胸が熱くなりながら、少女が眩しくて俯いた。
(君こそ来てくれて……)
言いたかったが言葉にならなかった。

 水着ではなかった。赤い短パンに黄色いTシャツ、青いキャップ、その色に合わせたのか、青いラインの入ったスニーカー。少年みたいだった。
「信号みたいでしょ」
「信号?」
言われて、身につけた配色だと気がついた。
「ほんとだね」
「ふふ」

 水着より可愛い。ボーイッシュで、快活に見える。大きめのTシャツの胸にはほんのり乳首が覗いている。スポーティーな服装によって少女らしさがより強調された形となった。

「煙草吸ってたね」
「うん……」
「吸っていいの?」
「ほんとは、だめだけど……」
年齢を訊くこともなく、
「今日は人がいるね」
「うん。どうしようかと思って……」
その言葉の裏には『昨日の続き』がひそんでいる。
「あっちのねーー」
少女が山の方を指差した。
「鉄塔の方に行くと峠があるの」
「峠?」
「一回行ったことあるけど、静かだったよ」
彼女も『続き』を考えている。表情からは窺えないが、ぼくの手をそっと握ってきたことで気持ちは察せられた。
「道、わかる?」
「うん。川に沿って行けばすぐよ」
車に乗り込みながらせかすように手を振った。


 少女の言う通りに進むと道はほどなく急な登りとなって、しかも、途中に擦れ違いのためのスペースがあるほど道幅は狭くなっていった。ギアをセカンドに落して登って行く。
「この道でいいの?」
「いいのよ。もう少しだったと思うわ」
不安になりながら、一方でときめきを感じていた。
(こんな所ならめったに人は来ないだろう)

 やがて鈍いエンジン音が軽くなって道が平坦になった。
「あそこよ」
「海だ」
登り切ってほっとした気持ちと見下ろす真っ青な海に思わず声が出た。
 道路は砂利道となって先は車止めの柵がある。細い道が続いているところをみると遊歩道にでもなっているようだ。
 広場というほどでもないが何台か駐車はできる。端に寄せて木の下に停めた。

「きれいでしょう?」
「うん」
眺望はたしかに素晴らしい。
「崖のとこ、行ってみる?」
おそらく景観の位置からしてほぼ真下に海水浴場が見えるのだと思った。
「いや、暑いからいいよ」
少女も車から降りようとはしなかった。見つめ合った時、少女の笑いが消えたのはぼくの昂ぶりが伝わったからだろうか。
(早く、続きを……)

 ぼくが後ろを見ると少女も後部に目をやった。すでにフラットにセットしてある。
「広いね。ほんとに寝られるね」
「うん。タオルも敷いてあるから……」
少女はその場で靴を脱ぐとシートを跨いだ。開いた短パンから付け根が覗いて白い下着が見えた。

「わあ、気持ちいい」
横になって転がって、大の字になって頭をもたげた。
「きて、きて」
はしゃいでぼくを呼ぶ。
辺りを見回した。フロントガラスにサンバイザーを立て掛けた。リアウインドウには日よけネットが張ってある。ドア側からは丸見えだが、誰も来ないだろう。もし来てもすぐにタオルをかぶればいい。ここで寝ているだけだ。……

 横になるや、少女の腕が巻きついてきた。
「三人でも寝られるね」
笑って言うその唇がぼくを待つ。口の周りや鼻の頭にも繊毛のような産毛が光る。
 キスをする。少女の甘い汗の匂いがぼくを狂わせていく。激しい想いが剥き出しになって彼女の体を抱きしめる。どんなに掻き抱いても足りないくらい気持ちの昂揚は噴き上がってくる。それが伝わったのか、少女の腕にも力が加わったのがわかった。

 ぼくの手は彼女をまさぐった。乳房、背中、お尻……。何度も繰り返すうちに少女の手も動き始めた。
 確かめるようにゆっくりと、ぼくの肩を撫で、背中に回り、
「大きいね……」
少女に重なった形で見つめ合った。
(可愛い……)
昂奮が治まったわけでもないのに一区切りのように動きを止めたのはその愛らしい瞳に陶酔したのかもしれない。
 黒い瞳は何かをささやくようにくりくりと動く。この子をいま、ぼくは包んでいる。その現実をしばし実感したかったのかもしれない。熱いほどの体温、彼女のにおいと熱気がぼくを熔かしていくようだ。……

 エンジンの響きと送風の音。ぼくたちの息遣いが聴こえる。
「何か飲む?」
「何があるの?」
「ミルクティーと、カルピスソーダと、ウーロン茶」
「カルピスがいい」
バッグから取り出し、手渡そうとして動悸が高鳴った。少女の微笑みと濡れた唇が咄嗟の思いつきになった。
「飲ませてあげようか?」
少女はきょとんとしている。
「どうやって?」
ぼくはカルピスを口に含むと顔を寄せていった。
「ふふ……面白い……」
意味を解して唇を突き出した。

 口移しは昂奮した。少しずつ流し込み、少女の喉がごくりと鳴る音が妙に淫らで、
「もっと」
せがむ彼女の舌舐めずりがさらにぼくを煽った。

「もっと……」
何度もキスが続くことになった。カルピスを飲み込んでも唇を舐め合い、味がなくなるまで舌を絡め、次第にのめり込むように体を密着していった。

「あたしも飲ませてあげるわ」
少女の顔は明らかに変化していた。頬は紅潮して、つぶらな瞳はややつり上がり、睨むようにぼくを見据えると体を入れ替えて馬乗りになった。

 少女の口からぼくの口へ……。
甘美な口移しは繰り返された。見下ろす少女の笑みにぼくは縋りたいほどの色香を感じて恍惚となった。

 



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