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ピエロの恋
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ピエロの恋-4

それは休み時間だった。黒いフードつきのジャケットを着た少女が担任と一緒に入って来た。
担任は何も言わず口の前で人差し指を立てた。そして左の手のひらを下に向けて腕を下げた。
全員その場に座った。椅子に座る者、床に座る者、さまざまだった。
「皆さんこんにちは。私はこの学校を見学に来た者です。このクラスにアバターロボットが来ていると聞いて会いに来ました」
その少女は鈴を転がしたような澄んだ声でそう言った。
俺はピエロの空の席を見てから、その少女に言った。彼は欠席していると。
「それは残念です。誰かピエロさんのことを詳しく知っている人はいませんか?」
少女は青い目を見開いてクラスを見回した。するとみんなの視線が俺に集中したので、少女は俺に言った。
「あなたは?」
俺はタダシだ。ピエロは俺の友達だけど、そんなに詳しくは分からない。
「彼はどんな人ですか?」
どんな人かって……ピュアな奴だよ。感情表現が豊かで、話していると楽しい。顔は分かんないけれど、心はイケメンといえる。欠点は秘密が多いってことかな。
俺は問われるままにそんなことを言ったと思う。
「ありがとうございます。タダシさん。言い遅れました。私はナリアと言います。今日はどうもありがとう」
俺は咄嗟に彼女の正体が分からなかった。少女はフードを脱いで長い金髪をなびかせて一礼した。
クラスの皆も催眠術にかかったみたいにその場で一礼した。もちろん俺も。
そして顔を上げたときに彼女の姿は教室から消えていた。
担任は小さな声で言った。
「誰だと思ってる? ナリア王女だよ」
えぇぇぇぇーーーー! とみんな一斉に驚きの声を上げた。


ナリア王女はさる国から赤ん坊の頃に亡命して来た。
以来この国で生活して十数年、すっかりこの国に馴染んだという。
だが暗殺などの危険から身を守るために、その居所は不明である。
たまにニュースで姿を現すこともあるが、それも秘密裏の取材で初めて可能になったという。
ちょうど俺たちと同い年になるが、どうやって生活しているのかは全くわからない。
ただ彼女には王家の莫大な財産があり、それらは全て国外に持ち出されていて革命軍の手に渡らなかったそうだ。
つまり彼女は億万長者の超セレブなのだ。
国許に帰れる見込みはないので、彼女は既に帰化している。
そこで話題になるのは結婚相手のことだ。
彼女はこの国で配偶者を見つけるとのこと。


「ナリア王女、どんなタイプの男性をお望みですか?」
インタビューの問いに、ナリア王女はしっかりした口調で答えた。
「できれば同年代の人を相手にと思っています。その人柄を十分見極めたうえで選びたいのですが、それが難しくて」
「そうですね。ナリア王女ご自身そういう人たちと交流をする機会がなかなかないですからね」
話はそれから彼女の故国の政治情勢に移った。
その模様を見ていた全国の男子高校生は逆玉の夢を見たものだ。
まあ、俺としてはそんなことは宝籤で一等を当てるより難しいことだと思っているけどね。
つまり現実的じゃないから、初めから考えないってことだ。



俺はピエロが登校して来たのを見て、早速話しかけた。
「おはよう。お前なんで昨日休んだんだ。いったい誰が来たと思う?」
「ああ、おはよう。タダシ。誰が来たって?」
「ナリア王女だよ。いきなり視察に来たんだ。そして……俺に声をかけた」
「へえーー、それはまた奇跡的なできごとだね。なんて言ったの、タダシに?」
「それがだな」


俺は深呼吸を一つするとピエロに言った。
「彼女はお前のことを聞いてきたんだよ。お前の親友が俺だと聞いて色々質問して来た。
たとえば趣味とか性格とか欠点や長所とか、まあかなり興味を持ったみたいだ」
「いったい僕の欠点はなんだって言ったんだよ」
「欠点は正体がわからないってことだって言った。事実だろう?
本名も顔も声も分からない。その姿を現さない事情ってのも分からない。
だけど、お前はいい奴だとも言っておいた。気持ちがさっぱりしていて心がイケメンだってな。」
「ありがとう」
ピエロはぽっと顔色を薄いピンク色に染めた。あれれもしかしてこいつ。


 


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