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ピエロの恋
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ピエロの恋-6

隣の部屋のドアが開いた。あのナリア王女が立っていた。
「お待たせしました。ああ、タダシさん。あなたも一緒ね」
ピエロは目を開けたが、何か落ち着かない。もしかして、あがってるのか……。
「ナリア王女様。僕がピエロです。宜しくお願いします」
そう言いながらピエロは急発進で前進した。握手でもする積りだろうか? 
奴には手がないというのに!
「危ない。ぶつかるぞ」
俺はとっさにピエロに背後から抱きついた。奴を止めなきゃ王女に衝突しそうだったからだ。
「落ち着いて、ピエロさん。」
ナリア王女は流石に冷や汗をかいたようだ。
ピエロの奴は口をパクパクして、酸欠の金魚みたいな顔をしていた。
なんてあがり症なんだ。
それから奴は少しずつ慎重にバックして2mくらい王女から離れた。
「御機嫌よう。王女様。お会いできて嬉しいです」
おお、やっと冷静になったな。上品な挨拶をしている。
「お友達のタダシさんと一緒に来たのですね、ピエロさん」
「はい、さようでございます」
な……なんかおかしい。丁寧すぎる。やっぱ、あがってる?
「ところで聞きたかったのですけど、どうしてピエロと言う名前にしたのですか?」
ほらほら、出たぞ。この質問。俺にしたようにさらりと説明してみろ。
すると奴は顔を180度回転して背後にいた俺の方を見た。
「えーっと、なんだったっけ、タダシさん?」
タダシさんだって? 気持ち悪い。普通にタダシって言え!


「おいしっかりしろ。王女さまの質問に答えろ。ピエロは厚化粧するんだろう?」
するとピエロは忙しく顔を俺とナリア王女との間を2往復くらいしてから、俺の方を見て言うんだ。
「そうです。僕はピエロのように厚化粧はしません。でも化粧することもあるので、そこが同じなんです」
こらっ、お前は誰に言ってるんだ。それになにをトンチンカンなこと言ってる。
お前が化粧する訳ないだろう。
「そうです。僕は化粧しませんでした。それなのにどうしてピエロというかというと……」
ピエロは王女の方を見て、その後絶句した。王女はピエロの顔を見てなにか閃いたらしかった。
「ああ、わかったわ。そうなのね。きっとそうなんでしょう」
「はい、そうです。それです」
「おい、それってなんだ?」
俺はピエロを小突いた。すると王女が代わりに答えた。
「ピエロが厚化粧で素顔を隠しているように、あなたもロボットで素顔を隠しているから……きっとそうなんでしょう?」
「そうです。そう言いたかったのです。王女さま」
 なんて会話だ。だがとにかく俺はこの場を離れていた方がよさそうだ。ちょっと部屋の隅の方に行って、離れて見ていよう。
「待って、タダシさんはここにいて下さい」
ナリア王女はピエロと同じようなことを言った。
あんたも心細いのか、このロボットと2人きりになるのが?



ナリア王女はにっこり笑うと長い金髪を手でかき分けた。
「タダシさん、ピエロさんのことどの程度好きなんですか?」
ええっ? 何を言い出すんだ、この王女は? 友達として仲がいいだけだろうが。
まさかBLとか、そういうことを言い出すんじゃないだろうな。
「というのは、タダシさんはピエロさんのことどうも特別の感情で見ているような気がするから」
はあ? 何を根拠にそんなことを。まてよ、あのときのことかな?


だがどうしてナリア王女は俺とピエロのことをそんなに詳しく知っているんだ?
「ごめんなさい。実はピエロさんと私は結構親しいのよ。だから、あなたのことはピエロさんから聞いて良く知ってるの」
おい、ピエロ。それは本当か? じゃあ、何故王女さんと初対面を装ったんだ?
俺に嘘をついていたのか? じゃあ、王女さんを特別な意味で好きだというのも嘘か?
するとピエロは顔を上下にコクリコクリと動かした。


ピエロめ。もう勘弁ならないぞ。どうしてお前は嘘ばかりつくんだ。
やい、お前が俺をここに連れて来た本当の理由はなんだ? 白状しろ。
「ススムさんを……じゃなかった、タダシさんを王女さまに合わせる為だったんです。
そうでしたよね、王女様」
ナリア王女はにっこりして頷いた。そうなのか? 王女は俺に関心があるのか?
待て、その前にさっきからピエロ、お前の様子が絶対おかしい。お前は誰なんだ?
お前はいつものピエロじゃないな? そのときナリア王女が笑った。
「そうですよ、タダシさん。それは侍女のサラです。サラ、しばらく電源を切るからね」
ナリア王女はリモコンのようなものを動かした。
するとピエロの顔はノッペラボウになった。動力がオフになったのだ。
俺は王女に言った。それじゃあ、本物のピエロはどこに行ったんだって。
「君の目の前にいるじゃないか、タダシ」
王女は王女の声でピエロの口真似をした。なに?
「僕だよ。僕がピエロの正体だよ。ナリアだ。これでお分かり?」
そうか、ナリア王女は公衆の面前で顔を出す訳にはいかないからピエロになっていたのか。
おいおい、王女がドレスを脱ぎ始めたぞ。いったい何をする積りだ。
「タダシも生まれたままの姿を私に見せたから、平等にしないとね。
ところで、もう一度さきほどの質問をしても良いかしら?
タダシさん、ピエロさんのことどの程度好きなんですか?」
ナリア王女はそう言うと、最後の布切れを脱ぎ捨てた。
どうやら俺が例の逆玉に選ばれたらしい。

                完 

      


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