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蔵の嗚咽
【近親相姦 官能小説】

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第二章-5

 伯母が出かけたのを見届けると母屋の裏手に回った。
トイレの小窓が見える。小じんまりした中庭を挟んで蔵の扉とはいくらも離れていない。
 扉に鍵が掛っていないのは昔もそうだったが、わずかに開いている。
(やっぱりタエがいたんだ……)

 扉は難なく開いた。
もっと重かったと思いながら全開にすると内部に光が差し込んで見覚えのあるものが目に入った。
 大きな臼とそこに立てかけてある杵。使ったのは見たことがない。この家には納屋がないので物置代わりに道具類を入れてある。古い農耕具もクモの巣が張っている。ひんやりとした空気が満ちていた。

 階段を見て思い出した。
(兄が怖がって上らなかった……)
大丈夫だと強がりながら私も途中までしか行けなくて結局二階に上ったことはない。

 上りかけて足をとめた。よく見ると階段の中央辺りの埃がない。
(きっと歩いたからだ……)
上を見上げる。入口の明かりが届かないので闇のように暗い。急いで母屋に戻ると柱に掛けてある懐中電灯を持ってきた。

 電気を照らすと逆に闇が迫って見える。足元を見ていくと明らかに足跡と思しき形跡である。
 
 二階は思いのほか広かった。
窓は一つあるが外側の扉が閉じられている。そこを開けると何とか室内が見渡せた。
 太い梁が空間を二分するように通っている。古ぼけた箪笥。ガラス戸の付いた食器棚には、おそらく皿や茶碗と思われる新聞紙に包まれたものがぎっしり詰まっていた。やはり新聞紙に丸められたたくさんの筒状のものは掛け軸と思われる。

 見たところ変ったものはない。
(タエがいた形跡……)
 気になったのは箪笥の前に広げられた毛布である。
(なぜこんなところに……)
考えてみれば不自然だと思った。
(ここで寝ていたのだろうか?)
毛布に寝転んでみた。夜は母屋より涼しいかもしれない。
(タエは汗っかきだ……)

 ふと、箪笥の下の一段だけが少し出っ張っているのが目に入った。クワガタムシの色に似た頑丈な箪笥である。私がその抽斗に手をかけたのは何かを予感してのことではない。ただ、何となく……。

 開けてみて驚いた。江戸時代の恰好をした裸の男と女がくっついている絵が目に飛び込んできたのである。
(何、これ……)
巨大なおちんちんが毛の生えた真っ赤な女の股に突き刺さっている。絵は何枚も重ねられてあって、後ろから刺さっているのもあれば、横向きのものもある。
 私は魅入られてしばらく動くことが出来なかった。枕絵を知るのはずっと後のことだが、それがどんなものなのか、その時の私にとってたいした意味は持たなかった。衝撃だけで十分だった。それまで少しずつ蠢いていた性の世界が解説図となって鮮やかな色がいっぱいに広がった。不確実ながら、何かが繋がって、男と女の体が頭の中で右往左往していた。昂奮するにはそれ以上の刺激は必要なかった。

 もっとよく見たい。……懐中電灯を点けると中にもコンパクトなライトが入っている。
(タエ……これを見ていたのか?……)
 夢中で繰っていると、隅に押し込むようにタオルで包まれた棒状のものが見えた。まだ新しいタオルである。昔からあったものではない。手が伸びていったのは直感的に絵と関連があるような気がしたからだった。

 開けてみると茶色い棒が現われた。プラスチックのようで、ガラスみたいにやや透けていて、透明感がある。
(何だろう……)
眺めているうちに突然体が熱くなったのは絵の中にも同じ形のものがあったと気づいたからだった。べっ甲の張り形であると解かるはずもない。だがそれが『おちんちん』であることは確信できた。
 妖しい妄想が沸き起こってきた。絵とおちんちんと、そしてタエ……。
(タエがこれを股に……)
セックスをよく知らない私の体に淫猥な感覚が芽生え、方向も定まらないまま蠢動し始めていた。

 その日の夕方、私は風呂場で精通を経験した。ペニスを触っているうちに全身に甘美な痺れが走って怒涛の状況に巻き込まれてしまったのである。あっという間のことだった。快感と衝撃で気が遠くなって、掌に散った液体を茫然と見つめた。

 突然自分の体に起こった鮮烈な出来事。当然ながらその嵐のような初体験に捉われるはずなのに、私の想いははっきりと方向を見据えていた。
(蔵にいるタエを見たい……)
それだけが頭を巡った。
(蔵にいるタエ……)
彼女がそこで何をするのか。はっきりした映像も描けないのに、頭に焼きついた何葉もの露骨な絵と怪しげな『性器』が熱く思い出されて、私は目が霞むほどに陶然としたものだ。

 伯父とタエは暗くなってから帰ってきた。タエはひどく疲れた顔をしていた。
「おなか空いたでしょう。手を洗って早くごはん食べなさい」
伯母はやさしく微笑みかけて言った。いつも朝しか作らない卵焼きがあったのはタエが好きだったから添えたのか、とにかく朝の険しい顔が嘘のような柔和な表情だった。だが私にはわざとらしく感じられてならなかった。
(本心はちがう……)
本当のところどうだったのか。それはわからない。ただ私は伯母と伯父がタエをこの家から追い出してしまうのではないかと危惧していた。自分の子供じゃないから、頭が悪いから、私がタエの部屋で寝てたから……。そうだとしたら許せない。幼いながら男としての正義感、『女』を守りたい情念めいた想いが渦巻いていた。
  
 翌朝早く母から電話があって、私は急遽帰ることになった。母方の祖母の具合が思わしくなくて今のうちに顔を見せておきたいというのだった。
 伯母と一緒に家を出る時、タエはいつもの元気がなく、力のない笑顔を私に向けた。


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