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蔵の嗚咽
【近親相姦 官能小説】

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終章-3

 その後の伯母の様子がどうだったのか、私は知らない。横たわっているあられもない姿を見ているうちに居たたまれなくなって夜のうちに家を出てしまったのである。
(自分はいったい何をしたのだろう……)
起こった出来事を反芻しても混乱するばかりで現実の感覚がまったくわからなくなってしまっていた。

(大変なことになった……)
伯母を抱いた。……タエの面影は跡形もなく消えていた。

 とにかくその場から逃げだしたくて飛び出したのだった。電車はすでになく、待合室で夜を明かした。伯母が追ってくるような気がして、うとうとしながら何度も目が覚めた。
 始発に乗って座席に座るとどっと疲れを感じた。秩父から一刻も早く離れたいと思ったのは初めてのことだった。


 それから十年ぶりの伯母の家。重い足取りでことさらゆっくり歩いてもその家は私の前に現われた。
 立ち止まって外観を眺めると当然ながらずいぶん傷んで古ぼけている。だが古いだけでなく、人が住んでいる気配というか、雰囲気が感じられない。
 門をくぐり、飛び石が九つある。小さい頃はケンケンをして遊んだものだ。庭木は手入れもしていない。枝は伸び放題で雑草の中に立っている。

 玄関を開ける時、ふと手が止まったのは伯母の記憶のことを考えたからである。
(あのこと……)
正常であれば忘れるはずのない出来事だが、かなり進行した認知症だという。私はそこに縋るしかなかった。
(忘れていてほしい……)
股を開いて全裸のまま眠っていた伯母。その股間からは生々しい私の精液が漏れ出していた。……
 あの事は二人しか知らない。あれ以来、伯母とは電話ですら話をしていない。きっと憶えていない。……

 それにしてもどんな顔をして会ったらいいものか。心は迷う。
意を決して声をかけた。返事がない。鍵はかかっていない。私が行くことは伝えてあるから留守だとしても近所に行ったのだろう。ほっと息をついた。
 玄関を入ってもう一度呼んでみたがやはりいないようだった。

 台所に鍋がかかっていて香ばしい匂いがする。
(火をつけたまま?……)
昔の伯母なら考えられないことだ。
 鍋の中にはタコ糸で縛った豚肉がつゆに浸っている。子供の頃、よく作ってくれた手作りの焼豚。
「三時間も煮込むのよ。柔らかいでしょう」
大好物だといって私が食べるのを嬉しそうに見ていた。

 煙草を喫いながら、去来する想いを煙とともに吐き出してはまた新たな記憶を辿った。だが、家の中に身を入れてみると、たくさんあったはずの思い出が浮かんでこない。目を閉じると粘ついたものがまとわりついているような感じがする。すべてが汚泥に埋もれたように思えた。

 しばらくしてふと蔵を見てみようと思い立った。
(あの絵はまだあるのか?)
そして張り形。あんな硬いモノと思ったものだが、今なら知識として理解できる。べっ甲は湯煎すると適度な柔らかさになるらしい。じっくり見てみようと思った。

 裏口から裏庭にでる。ここから伯父は出てきたのだ。トイレの窓は閉まっていた。
 足を止めたのは伯母の声が聞こえたからだった。呼ばれたと思い、振り返ってから蔵の中だと気づいた。
 扉は開け放たれている。二階から伯母の声がはっきり響いてきた。
「ああ……ああ……もっと、もっと……ねえ、あなた……」
か細いが濃密な一筋の声。その声は哀しくも『生』に満ちた艶やかさをもって蔵に沁み込んでいった。
「もっと深く……突いて、突いて……ああ……」
(伯母さん……)
「タエは死んだのよ。死にたいと言ったのよ。だからおっぺしてやったのよ。これでよかったのよ。ねえ……」
入口に立ちつくした私はかび臭い蔵の冷気に包まれて動くことができなかった。


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