dream・road-9
グラスを洗いながらダニーはミゲルに質問をしていた。
「なぁ、ミゲル。なんであんなことを…」
「…あいつの覚悟を見せてもらうためさ」
「覚悟…?」
グラスを洗う手を止めて、ダニーはミゲルの話に耳を傾け始めた。
「日本とここじゃあ、なにもかもが違う…。言葉から人種、それこそ価値観もな…」
「だから、なんの覚悟を見るんだ?」
「あいつに命を賭ける覚悟、野生があるかってことだ…」
「野生…」
人気のない路地裏。
小さな街灯の明かりだけが地面を照らしている。
龍矢は男たちを見据えた。
男の一人がポケットからなにかを取り出す。男が手首を振ると、鈍く光る刃が飛び出した。
さらに残りの二人も近くにあった角材や、メリケンサックで武装している。
深夜の路地裏。例え殺してしまっても殺人事件などそう珍しいものでもない。証拠さえ残さなければそうは捕まらないだろう。
ましてや日本人の死体など、勝手に観光目的で来て不運にも殺されたと処理される。
むこうは始めからこちらを殺す気なのだ。
「おもしれぇ…」
龍矢が呟くと同時に角材を持った男が襲いかかる。
顔面に向かって振り回された角材を龍矢は軽く前に屈んで避ける。
角材を空振った男は体勢を崩した。
この好機は逃さない。龍矢はさらに深く体を曲げると、男のみぞおちに拳をめりこませた。
衝撃で男の体が「く」の字に曲がる。
屈んだ体を戻しながら足で大地を踏み込んだ。
物凄い速度で上昇していく体から打ち出された拳は、的確に男のアゴを撃ち抜いた。
かちあがった男のアゴを反対の手で掴み、
壁にたたきつけた。
男の結末を見届ける前に龍矢は後ろを振り向く。
残った男たちは二人同時に突っ込んできた。
どちらの凶器も危険だが、龍矢はナイフを持った男を狙うことにした。ナイフは場所によっては、かするだけでも致命傷になりかねないと判断してのことだ。
男たちの手元に意識を集中する。ナイフを持つ男の手がかすかに動く。
(来る!)
そう思ったと同時に顔に向かって一直線にナイフが向かってくる。
明確な殺意を帯びた銀の光を、顔を傾けて避ける。頬に軽い痛みが走るが気にしていられない。
右手の掌底(手の平の土手の柔らかい部分)を鼻に叩き込んだ。手に伝わる鈍い感触、鼻血が出たのだろう。男はナイフを手放して顔を抑えた。
(よし!!)
落としたナイフを蹴り飛ばす。ナイフをくるくると回りながら闇に消えていった。
ガッ!!
「っっ!!」
からだの自由が奪われる。残った男に後ろから羽交い締めにされたのだ。