dream・road-8
マリアがベッドに入ってから数分。
(もう寝たかな…)
龍矢が椅子から腰をあげた瞬間。
「…いかないで」
「ん…寝てなかったのか」
「なんか眠れなくて…」
ただでさえいつもよりも早く寝ようとしていて、夕方にもずっと寝込んでいたのだ。
眠れなくても仕方ないだろう。
そんなことを龍矢が考えていると、マリアは龍矢にお願いをし始めた。
「ね、タツヤ…」
「なんだ?」
「手、握っててくれる…?」
「わかった。いいよ」
「ありがと…」
そういって握られた彼女の手は、やっぱり小さくて、弱々しくて、温かかった。
「タツヤの手、冷たいね」
「お前が熱いんだ」
「ふふっ、そうだね……」
「マリア?」
「すぅ…」
「…ったく」
龍矢はマリアの額に手をあてた。熱も下がってきている。あと一日二日もすれば元気になるだろう。
少し名残惜しいが、龍矢はマリアの手を柔らかくほどくと、部屋を後にした。
約束の時間まではまだ少し時間があるが、龍矢は店に戻ることにした。
店に戻ると、朝と同じようにダニーと向かい合ってミゲルが座っていた。
「来たか…」
「次はなにをすればいいんだ?」
「ストリートファイトをしてこい…」
「…喧嘩をか?」
「ああ…」
「…ッ!!冗談じゃねぇぞ!!なんでアメリカまで来て喧嘩なんかしなくちゃなんねぇんだ!!あぁ!?」
「……」
「お、おいタツヤ…」
「俺は…俺は少しでも早くプロになって、あの人と…」
「…お前の話はどうでもいい。さっさと行け」
「…くそがっ!」
語気も荒々しく、龍矢は店を後にした。
バーには元の雰囲気が戻ったが、ダニーは疑問をミゲルにぶつけた。
龍矢は、あてもなく街をぶらついていた。あの老人は一体何を考えているのか…。
「俺はボクサーになりてぇんだ…。喧嘩屋になんかなるつもりはねぇ…」
ドンッ!
そんなことをぼやいていると、肩に軽い衝撃が走った。
「オイ!」
「あぁ…?」
振り向くと三人の若者が龍矢を睨んでいる。
基本的に龍矢は理由のない喧嘩はしない主義なのだが、今日だけはその限りではなかった。
「兄ちゃん、こっち来いよ」
「上等だ…」
男たちと龍矢は夜の闇に溶けていった…。