dream・road-10
「くっ…」
振りほどこうとするが思うように力が入らない。
前を見ると、鼻から血を流しながらもう一人の男が突っ込んできた。
「くそが…!!」
ミゲルは、ダニーに説明を続けた。
「相手の肉を切るためには、自分は骨を絶たなくてはならない…。
相手の骨を絶つには、自分の想いを砕かなくてはならない。
相手の想いを砕くには、自分は命を賭けなくてはいけない。」
「ミゲル…」
「こちらはいつでも分が悪いことを考えるをだ。そして、相手を二度と自分の前に立たせないためには意思を砕くしかない」
「命を賭けて、か?」
「体とか才能なんてのは二の次だ。そのくらいの気概が無ければ、この街では生き残れない」
「賭け金は己の命…」
「報酬は夢ってわけだ…」
「勝負を降りたら…?」
「精神的な死…もしかしたら本当の死が待っているかもしれない」
「…確かに分が悪いな」
「それがこの街の掟だ…だが…」
「だが…?」
龍矢の頬に拳がめり込む。殴られた箇所が熱を持つ。
二発、三発、四発…。段々と意識が遠のいていく。
(やべえかな…)
龍矢がそう思った時だった。
「なんだ?気でも失ったか?」
羽交い締めにしていた男が顔を近付けたのだ。
(…今しかねぇっ!)
龍矢はありったけの力を込めて腕を上にあげた。勘で掴んだ場所を思い切り引っ張る。
「ギイャアァ!」
プチっという音、柔らかい感触。どうやら耳が少し千切れたらしい。
男が羽交い締めにしていた腕の力を緩めた。
この機は逃さない。
龍矢は腕を振りほどき後ろに向き直ると、男のシャツの襟(えり)をつかんだ。
男は逃げようとするが、襟を捕まれていて逃げられない。
龍矢は男のアゴに力の限りの拳を撃ち込んだ。
男は数メートル吹っ飛び、倒れたまま動かなくなった。
(あと一人…!)
ゴッ!!
頭に突然襲いかかる鈍い衝撃。視界が急速に暗くなる。しかし、今意識を失えばやられるのは自分だ。龍矢は必死に意識を繋ぎ止めた。
後ろを向くと、揺れる視界には残りの男がどこから拾ってきたのか、ビンを振り上げて笑っていた。
もう一発振り下ろされたら確実にやられるが、脚がいうことをきかない。
男は勝ち誇った笑みを浮かべながらビンを振り下ろした。