dream・road-7
帰りに、果物と薬を買いマリアの部屋へと戻る。
部屋に入ると、マリアはまだ眠っていた。静かな寝息を立てている。
「りんごでも向いてやるか…」
リビングのグラスと水を片づけ果物を剥いていると、後ろからマリアの声が聞こえた。
「タツヤ…」
「まだ寝てろ、凄い熱なんだから」
「この服…タツヤが着せてくれたの?」
「あぁ。お前の下着姿も見させてもらったよ。スケベだからな」
昨日言われたことを思い出し、多少嫌味を織り混ぜる。
「…ありがとう」
「どういたしまして。ほら、まだ寝てろ。今果物持ってくから」
「うん…」
果物とココアを持ってマリアの部屋に入ると、ベッドの上で上半身を起こしているマリアがいた。
「ほら、持ってきたぞ」
「うん…」
「…?、いらないのか?」
「ちがうよ、じゃあ…頂いていい?」
「あぁ」
ゆっくりと、少しずつ果物を食べるマリア。少しは体調もよくなったようだ。
龍矢は窓を見ると、空が暗くなっていることに気付いた。時計を見ると、もう七時を回っている。部屋の電気をつけるために立とうとすると、マリアが小さな声で龍矢に問いかけた。
「ねぇ、タツヤ…」
「ん?」
「怒ってるよね…ボクのこと」
「あぁ…昨日のことか」
「レイラさん、ボクよりずっと綺麗だもんね。タツヤだって好きになっちゃうよね…」
「…なに言ってんだ?あれは…ただ憧れただけだ。一人の成功者としてな」
「ホント…?ホントに…?」
マリアは食べる手を止めて龍矢に向き直った。暗い部屋で窓からの街の灯りが彼女の顔を静かに照らす。
まだ下がっていない熱のせいか。彼女の微かに潤んだ瞳と、上気した頬を見て龍矢は激しく理性を揺さぶられた。
目の前で弱々しい視線を向ける彼女を、龍矢は自分のものにしたかった。
たった一人で見知らぬ街で働いているのだ。自分が助けてほしい時も、誰も救いの手は差しのべてはくれない。
龍矢もマリアの寂しさを理解していた。自分だってまだ来て二日なのに不安で押し潰されそうなのだ。
しかも追い求めるのは《夢》という不確かなモノ。
いつ掴めるとも分からない。もしかしたら死ぬまで見つからないことだってある。
この子と一緒にいれば、お互いの寂しさを埋めることが出来るかもしれない…。
しかし、まだ龍矢は自分の気持ちに気付かなかった。
「あぁ、ホントだ」
「よかった…」
「もう今日は寝ちまいな。それまではいてやるから」
「うん!ちょっと歯みがいてくるね」
部屋から出ていくマリアを見て、龍矢は思った。これからもマリアが助けが必要なときは自分が助けてやろうと…。