dream・road-11
「だが…信念は捨てちゃいけない」
「信念?」
「そう、信念だ。どんなに力があろうが、信念がなければその力は無駄になる。そして、そいつは畜生になるのさ」
「信念…。ミゲル、お前はタツヤに何を見てるんだ?」
「……」
キィ…。
弱々しく入口のドアの開く音が聞こえる。ダニーは入口を見ると、そこに龍矢の姿を見つけた。
「タツヤ!大丈…!」
顔には青アザがいくつも付いており、額からは血も出ている。
「タツヤ!すぐに手当てを…」
「待て、ダニー」
突然ミゲルがダニーを呼び止め、龍矢に問いかけた。
「ボーイ、拳を見せてみな」
「……」
差し出された拳は、皮が剥けて血がにじみ出していた。さらに、拳自体は赤く腫れ上がっている。
「ビンか、壁か…何か固いものでも殴ったな…ナックルしか使わなかったのか?」
「当たり前だ。俺はボクサーになるんだ…!」
「ミゲル!早く手当てをしないと」
「…明日は何もしなくていい。明後日から、仕事が終わったらここにこい」
そう言うと、ミゲルは一枚の紙を龍矢に手渡した。
「これは…」
「じゃあな、俺は帰る。代金はツケといてくれ」
「おい、ミゲル!」
ダニーの言葉を無視してミゲルは店を後にした。
龍矢は傷の手当てを終えると、椅子から腰を上げた。
「タツヤ!?どこにいくんだ?」
「マリアの部屋に行ってくる。また一人でうめいてるかもしんないからな」
「お前ケガしてるんだぞ!自分の部屋で休んだ方が…」
龍矢は入口の取っ手に手を掛けると、ダニーに振り向いた。
「まだここに来て二日なんだけど、マリアといたほうがなんか落ち着くんだ…じゃあな、ダニー。また明日来るよ」
そう言い残して龍矢は店を出ていった。
マリアの部屋の前まで来た龍矢は扉を開ける。鍵はかかっていなかった、ずっと寝たままなのだろう。
寝室に向かうと、柔らかに寝息をたてているマリアがいた。その手は、寂しそうに柔らかく開いていた。
龍矢はそっとマリアの手を握った。起こさないように弱く。
マリアの手に少し力が入った。
(起きたか…?)
体に少し緊張が走る。
「タツヤ…」
…どうやら寝言だったらしい。
龍矢はマリアの手をとったまま床に座り、壁にもたれた。