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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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本当の気持ち-9

「店長……」


あたしが話しかけるよりも早く、彼はどことなくバツの悪い笑顔をこちらに向けた。


「オレ、ずっと駿河くんを応援してたんだけどね」


「え?」


「ずっと彼の相談にのってたんだ。ってか、無理矢理口割らせてそういう話に持ち込んでたんだけど」


そう軽く笑いながら店長は、駿河とご飯を食べに行ったり飲みに行ったことがあると、話してくれた。


駿河と店長がそんな仲良かったなんて……。


驚いて少し目を丸くしていたけれど、駿河の店長に対する態度を見てたら、なんとなく腑に落ちる。


店長というポジションとは言え、ガリガリの色白もやしっ子の彼。


温厚で、悪く言えばオドオド頼りなくて、愛妻家の彼はバイトからも弄られるようなキャラであり、みんなからいじられるのは日常茶飯事だった。


でも駿河だけは、店長をからかったり愛妻家ぶりを冷やかしたりすることもなく、店長の頼み事を嫌な顔一つしないで引き受けたり、とにかく彼に対して礼儀が正しいのだ。


今まではそれを元来のものだと思っていたけれど、あたしの知らない所でこういう信頼関係を築いていたからなんだろうな、となんとなくそう感じた。


そんな店長の口から出てくる、あたしの知らない駿河。


「古川さんの話を振ると真っ赤になって黙るんだよ、アイツ」


「ウソ……」


「駿河くんは仕事もできるし真面目だし、一見スキのない男って感じだろ? でもねえ、古川さんの話題になるとソワソワ貧乏ゆすりなんかしたり、酒飲んでごまかしたりしてんの」


照れて赤くなった駿河の顔がまるで想像できなくて、瞬きを何度か繰り返しては店長を凝視してしまう。


すると彼は、ぽってりした唇の端をニイッと歪めてあたしを見た。


「気付かなかった? 古川さんとシフトが一緒の時の駿河くんのあの浮足立ちよう」


「え、あ、あの……」


顔がカッと熱くなってしどろもどろになるあたしを、瞳まで弓のように細める店長は、


「なんだ、ちゃんと気付いてんじゃん」


なんて、ニヤリと尖った八重歯を見せながらクククと笑っていた。


あたしに『だけ』やたら厳しくて、意地悪で。


そんなあたし『だけ』の駿河が瞼の裏でいたずらっぽく笑う。




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