本当の気持ち-7
店長と駿河とシフトがかぶった日は、とにかくあがるのが早い。
いかに二人の仕事ぶりが効率的か、腕時計を見てはつくづく思う。
特に店長は早く家に帰りたがってるのが一目瞭然。
跨がった自転車を今か今かと踏み出そうとするその姿は、スタートラインに立つレーシングカーのようだった。
「それじゃあお疲れ!」
帰る時の挨拶だけがやたら元気な店長。片手をビシッと挙げるその姿に、あたしは心の中で「ごめんなさい、店長」と呟いた。
そして、今まさにペダルを漕ぎ出そうとしていた彼の自転車の荷台をグッと掴んで引き留めると、その弾みでギッとタイヤが音をたてる。
突然のあたしの行動に、三人は目を丸くして固まっていた。
「ど、どうしたの、古川さん?」
「店長、あたしDVD返さなきゃいけないので、途中までご一緒してもいいですか?」
ニッと笑いかけるその表情に、なんら不自然な所はないはず。
こうすれば、里穂ちゃんは駿河と二人きりになれる。
一刻も早く家に帰りたい店長には悪いけど、あたしの茶番劇に付き合ってもらおう。
あたしの家の近所にも、レンタル屋さんはあることはある。
でも、家とは正反対の方向にあって、しかも結構な距離、あげくに品揃えもイマイチと来たら、自然と足は遠のいてしまう。
対して、ここスウィングの近くにはちょっとしたショッピングモールがあって、その中に全国チェーンの大型レンタル店が入っているのだ。
となると、こちらを利用するのはもはや明らかで、スウィングでバイトしてる子達も専らそこを利用している。
返さなきゃいけないDVDがあるって嘘も、信憑性があるはずだ。
ホントはこんなことしたくない。
でも、徹底的にあたしと距離を置く駿河と、怪我をしたあたしを心底心配してくれる里穂ちゃん。
取り返しがつかないことをしてしまったあたしが、外見も内面も完璧な里穂ちゃんに勝てるわけがあるだろうか。
だから、あたしが先に消えないと。
二人が肩を並べて歩く姿を見なくて済むように。
何も知らない店長は、あたし、里穂ちゃん、駿河の順にゆっくり見渡してから、再びあたしに視線を戻した。
「……わかったよ。じゃあ途中まで行こう」
跨がっていた自転車から降りた店長の声はどことなく暗い。
あたしのせいで足止めを食らっちゃったからだろうな。
そんな店長の様子に気付かない振りをしたあたしはにっこり笑って頷いた。
「てわけだから、今日は二人で帰ってね〜!」
あたしの意図がわかったのか、小さく口元辺りで手刀を切る里穂ちゃんと、ポカンと口を開けたままの駿河。
そんな二人を尻目に、あたしは元気に手を振ってからゆっくりサンダルを鳴らし始めた。