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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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本当の気持ち-6

落ちた雫は、ケガしたあたしの手を握り続けてくれる里穂ちゃんの白魚のような手の上に落ちる。


あたしが泣いてるのに感づいた彼女は、一瞬息を小さく呑み込んでから、顔だけ店長の方に向けて口を開いた。


「店長、小夜さんの傷口に破片が入っていたら大変なので、スタッフルームで休ませてあげて下さい。フロア締めはあたしがやるんで」


「え!? い、いや、それはダメだよ。締め作業はオレと駿河くんでなんとかするから」


「いーんです、小夜さんにはいつもお世話になってるし! あ、制服じゃないけどいいですよね?」


そう言ってニッと笑った彼女は、スタスタと用具入れの方に歩いて行った。


ポカンと口を開けたままの店長に、ずっと黙っていたサラリーマンがおずおずと話しかけてきた。


「じゃ、じゃあ僕は帰ってもいいのかな」


「あ、お客様、この度は大変ご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした。お召し物の汚れはチェックさせていただいたのですが、万が一汚れが見つかりましたならばご連絡下さい」


「は、はい……」


どことなくぎこちない話ぶりの二人。


それでも、サラリーマンは深々と頭を下げた店長に恐縮しつつ、あたしにまで頭を下げてくれた。


あたしの起こしたミスなのに、みんなとても優しかった。


なのに、駿河の姿ばかりをこっそり視界の端で捉えようとしてしまう。


本音を言えば、みんなの優しさより、駿河のバカにしたような言葉が欲しいよ。


お客さんが誰もいなくなった店内に響く、駿河がウォッシャーにガチャガチャとラックを入れる音が耳を痛くさせる。


みんなの優しさが余計に、駿河を遠く感じさせ、あたしはギュッと目を閉じた。







「お疲れ様でしたー!」


シャッター前で響くのは、里穂ちゃんの元気な声。


そんな彼女に劣等感いっぱいのあたしは、密かに歯噛みして俯いてしまった。


あれから結局、里穂ちゃんがフロア締めを全部やってくれた。


あたしがいくら平気だからと言っても、彼女は首を横に振るだけ。


「今日は、小夜さんに協力してもらうんだから、そのお礼ですよ」


なんて、いたずらっ子のように笑われたら押し黙るしかなくて。


あたしはさして深くもない傷を見ては、ため息を吐くしか出来なかった。




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