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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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本当の気持ち-2

胸中穏やかでいられないあたしとは対照的に、視線の先の駿河は、少し冷めた顔。


それでも、目を合わせてくれただけでどれだけ安堵しただろう。


泣きそうになるのを堪えて彼を見つめていると、フロアに設置されている返却口の棚を指差す駿河。


見ればトレイやグラスが山のように積み重なっている。


駿河のことばかり考えていて食器を下げていなかったんだ……。


ボケッとしていた気まずさで、ついつい照れ笑いを浮かべてしまうあたしは、駿河に「バカ」って言われたくて、舌を出して彼に笑いかけた、のに。


「いらっしゃいませ」


あ、あれ?


駿河はそんなあたしを全く見ないまま、ディスペンサーの洗浄を中断し、ショーケース前でケーキを見て考え込んでいるおばさんに向けて頭を下げていた。


以前の駿河なら、お客さんが来てもちょっとしたアイコンタクトであたしに悪態を吐いてきたのに。


いつもと違う駿河の様子に、再びざわつく胸。


サッと青ざめて立ち尽くすあたしに、トレイを下げに来たおじさんが、


「ねえ、返却口がいっぱいなんだけど」


と、イラつき気味にあたしに言った。


「あ、も、申し訳ありません……」


「ったく、ボケッとしてんじゃねえよ」


仕事で何か嫌なことでもあったのか、スーツ姿のおじさんは、叩きつけるようにあたしにトレイを寄越してから、舌打ちを一つして店を出て行った。


グラスについていた水滴が弾みであたしのエプロンにはねていた。


でも、それを気にしないままあたしは視線だけをゆっくり動かす。


目で追ってしまうのは、一人でドリンクとレジをこなしながらテキパキ動くアイツの姿。


一切こちらを見てくれないその姿に、全身の血の気がひいていく。




――やっぱり、前みたいには戻れないの?




自分が営業スマイルを向けられているおばさんよりも遠くなってしまった、そんな気がしてならなかった。





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