本当の気持ち-1
◇
平日の夜のアイドルタイム。
こないだの花火大会のような混雑は一切なく、BGMがやけに鮮明に聴こえるくらい、店の中は落ち着いた状況だった。
そんな中、店長はレジ締めをするためにスタッフルームへ。
あたしと駿河は気まずさを隠しながら、それぞれレジとフロアに分かれて接客をこなしつつ、締め作業に取り掛かった。
ディスペンサーという、アイスコーヒーが入っていたマシンを洗浄するため、部品を分解している駿河の横顔をこっそり横目で覗く。
いつもなら、あたしの視線を目ざとく察知しては「こっち見んなブス」なんて憎まれ口を叩くアイツが、一切こちらに気付いていない。
いや、気付いていないんじゃなくて無視してんだろうな。
そんな状況に、目の奥がツーンと痛くなる。
里穂ちゃんにはいつも通りの笑顔を向けていたのに。
夕方、里穂ちゃんがシフトを提出し終えて、店を出る時に駿河と交わした会話の様子が、思い出したくないのに勝手に再生される。
カウンター越しの駿河に何か話しかける里穂ちゃんと、それに対してほんの少し口元を緩めた駿河。
あの時のアイツの微笑が何度も脳内でリピートされてはあたしの胸をざわめかす。
一体どんな話をしたんだろう。
駿河と前みたいに戻りたい気持ちと、里穂ちゃんとの会話を知りたい気持ちがグルグル渦巻いている。
根っこにあるのは、とにかく駿河と何らかのコミュニケーションを取らなきゃと言う焦り。
頭の中は、とにかくどうやって駿河と話をしようか、そのことしかなかった。
里穂ちゃんの会話の内容が気になって、何度も駿河に話しかけようとチャレンジしかけては、ためらってばかりのあたし。
そんな中、駿河が突然あたしの方を見るもんだから、緑ダスターを握り締めていた身体は直立不動の状態のまま、しばらく動けなかった。