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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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揺るがない決意-8

あたしには、いくら駿河に好きと言われた事実があったって、それを流してしまった以上、駿河の気持ちはもはや無いものと言ってもいいだろう。


駿河の気持ちを気付かないフリして、さらには自分の気持ちすらもあやふやにしてごまかすあたしより、堂々と自分に正直に、好きだと言える里穂ちゃんの方がどれだけ魅力的か。


その答えは歴然たるものだ。


好きなら正々堂々と戦えばいい、そんな考えも何度か頭の中を掠めたけれど、このあまりにパーフェクトな女の子を目の当たりにして、スタートラインに立つ勇気なんて、あたしには、ない。


ただただ下唇を噛み締めるだけのあたしに、彼女はそっと口を開いた。


「とりあえず一旦帰ってから、閉店頃にまた来ます。そのときに、駿河さんに『話がある』ってちゃんと伝えます。花火大会の日みたいに、回りくどい誘い方したって断られるでしょうから」


「そ、そう……」


「だから、小夜さんにも協力してもらいたいんです。バイトが終わったら、一人で先に帰ってもらえませんか?」


「え?」


驚いて見やる彼女の顔には、いつもの癒される笑みは無く、勝負をかける時のような真剣な眼差しがあった。


もはや、駿河を見て「かっこいい〜」とか「素敵〜」とか、キャピキャピはしゃぐいつもの里穂ちゃんではなかった。


彼女も彼女なりに駿河への想いが溢れて、アイツが辞めるのをきっかけに勇気を振り絞るつもりなんだ。


そんな彼女を見ていれば、あたしは首を縦に振るしかできないじゃないか。


本音を言えば、里穂ちゃんに駿河を渡したくない。


でも、駿河の気持ちを踏みにじったあたしは結局、震えるだけで動かせなかった唇を、無理矢理こじ開けて、


「……わかった」


と、言うしかできなかった。






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