揺るがない決意-5
気付いたら、蝶番が吹っ飛んでしまうんじゃないかってぐらい、勢いよくドアを開けて、あたしは里穂ちゃんの薄い肩を掴んでいた。
「え、ど、ど、どういうこと!? あたし、何も知らな……」
ユサユサと彼女の身体を揺すって問い詰めるけれど、それがあまりに乱暴だったのか、里穂ちゃんの眉間に皺が寄った。
「さ、小夜さん、痛……」
「あ、ご、ごめん……。あまりに急な話だったからびっくりして……」
痛みに顔をしかめる里穂ちゃんに、不意に我に返ったあたしは、そっと手を離した。
でも、まだまだ頭は冷静になれない。
視線があっちこっちに泳いで落ち着かないあたしに、里穂ちゃんは首を傾げながらも口を開いた。
「確かにあたしもついこないだその話を店長から聞かされたばかりだったから、驚きましたよー。でも、駿河さんもそろそろ就活しなきゃいけないだろうし、それなら仕方ないなあって……」
あたしに説明してくれる里穂ちゃんの言葉は、もはや頭の中にまともに入ってこなかった。
かろうじて聞こえて来た、『就活』というキーワード。
大学3年生の夏が終われば、就活に取りかかる人が多いのはわかってる。
だから、駿河がスウィングを辞めることになっても他のみんなはホントに就活のためだって信じるだろう。
でも、それはきっと、建前だ。
あたしが傷つけて、怒りを剥き出しにした駿河の顔が再び思い出される。
きっと、駿河はもうあたしと関わりたくないから、スウィングを辞めるんだ。
その瞬間、二人で過ごしたたった数時間の思い出が、ガラスが割れるみたいに耳をつんざくような音を立てて崩れていく。
アイツがあたしにくれた夏は、目を開けていられないくらい眩しくて、ができなくなるくらいに胸を苦しく締め付けた。