揺るがない決意-6
「小夜さん、顔、真っ青ですよ」
心配そうに、茶色い瞳をこちらに向ける里穂ちゃんの声で、ふと現実に引き戻される。
健康だけが取り柄のあたしだけど、この時だけは足元がおぼつかなくなって里穂ちゃんの隣にストンと腰を下ろした。
里穂ちゃんとの距離が近くなって、ふわりと彼女の香水の香りが鼻を掠めた。
爽やかなのにどこか甘い、クロエのオードパルファムの匂い。
そんな女の子らしい香りを纏った彼女は、ダマ一つなく綺麗にマスカラを塗ったまつ毛をはためかせて、心配そうにジッとこちらを見ていた。
その真っ直ぐな眼差しがあたしの心の内を見透かしているみたいだ。
あたしを茶化していた絹子や吉川くん、そして里穂ちゃんがここに来てると教えてくれた店長が、チラリと駿河を見やったあの視線。
きっと、みんなあたしが駿河を好きだって知っていたのだろう。
ならば、駿河を好きな里穂ちゃんはとっくにあたしの気持ちに気付いているのかもしれない。
自分でも気付かなかった恋心。
やっとそれに気付いた時は、すでに行き場を失ってしまったこの現実に、もう頭の中がこんがらがってショートしそうになる。
もう、全てぶちまけてめちゃくちゃになりたい――。
駿河がいたことで保っていた自制心も、彼がいなくなるのなら、このまま失ってしまうのなら、全て壊してしまいたい。
……卑怯でも裏切りでも、里穂ちゃんに全てを打ち明けよう。
頭を抱え込んで必死でこらえていた涙をクッと飲み込むと、あたしは意を決して里穂ちゃんに向き直った。
里穂ちゃんのことを裏切るような卑怯な女だけど、駿河に嘘はもうつきたくない。
駿河さえそばにいてくれたら、もういい人じゃなくてもいいし、何も要らない。
すっかり駿河でいっぱいになってしまったあたしは、里穂ちゃんに向かって震える唇を開く。
「里穂ちゃん、あのね――」
それとほぼ同時に、里穂ちゃんの小さな唇がぷるんと震えた。