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坂を登りて
【その他 官能小説】

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前編-4

(3)


 城山でゼンリョウと会った夜、小夜子はその時の場面を何度も思い出しながら恍惚の世界を漂った。
 射精の瞬間は見えない。いきなり顔に飛んできた。
「ああ、出ちゃった……」
ゼンリョウは泣き出しそうな声を出して股間を被ってうずくまった。
 びっくりした。が、ハンカチで顔を拭きながら何だか嬉しい気持ちになっていた。自分のためにこうなったのだと愛しい感情に包まれたのである。
「ゼンリョウ君。今度、絶対見せてあげる」
その時でもいいと思ったのだが、生理を匂わせた手前言い出せなかった。
「あの、あさってじゃ、だめ?」
ゼンリョウは股間を押さえたまま言った。見せるとは言ったが、覚悟というものがある。すぐに日を指定されるとは思わなかった。
 父親が法事で遠方まで出かけるので半日留守になるという。彼の母親はすでに亡くなっていて父親と二人暮らしなのだ。
「わかった。いいわ」
小夜子はやさしく微笑んで了承した。
(男子のこと、いろいろと訊いてみよう)
ハンカチを鼻に当てると青草のような臭いがした。


 その日、とんでもない展開になった。
 朝から小夜子は落ち着かなかった。見せる、と約束したことは後悔していない。むしろ持て余すほどのときめきが募っていたくらいだ。性への関心が一段と満ちていた。だがやはり性器を、しかも男子にみせるのだから平静でいられるはずはない。それに、どうやって見せたらいいのか、手順というのか、その方法、形がわからなくて困っていた。
 スカートを捲る前に下穿きを脱いでおいた方がいいのか、肝心な部分をどう見せたらいいか。ただ脚を開けばいいのか。
 昨夜手鏡に映しながら指でやってみたがどうにもしっくりしない。そんな経験はないのだから当然なのだが、ゼンリョウの顔を思い浮かべながらあれこれと試したりして、結局何も決まらなかった。

 とにかく風呂でよく洗って、今朝も濡れ手ぬぐいで拭いた。その時の場面を想像しても恥ずかしいとは思わなかった。たぶんすでに彼のモノを見ていたことで抵抗が薄らいでいたのかもしれない。
(もう一度よく見てみたい……)
そんな思いさえあった。おとといは射精の瞬間がわからなかった。自分が見せればゼンリョウもまた見せてくれるだろう。

 本堂の前で声をかけると、脇の玄関からすぐに彼が顔を出した。あまりに早い。おそらくじっと耳を澄ませて待っていたのだろうと思って可笑しくなった。

「ぼくの部屋でいいかな……」
「誰か来ることない?檀家の人とか」
「来ないよ。留守って知ってるから。来てもぼくの部屋は奥だから……」
顔が蒼白かった。

 寺だから玄関も廊下も広い。独特の息苦しいような静けさが誰かに見られているような不安を呼んだ。外ではアブラゼミが騒がしく鳴いている。
「ほんとに誰もいないんだよね……」
小夜子は通り過ぎる部屋を覗きながら言った。ゼンリョウは返事をしなかった。

「ヒッ……」
彼に続いて部屋に入った小夜子は思わず声を上げた。そこには三人の男子が座っていたのである。竹川芳樹、西沢昭一、井浦正……。ゼンリョウも含めてみんな小学校から知っている。

「みんな、どうしたの?」
小夜子は動揺を隠して作り笑いを見せながら、頬が熱くなるのを感じていた。
(ゼンリョウが喋った……)
見ると、彼は俯いて小さくなっていた。

 小夜子は立ったまま三人を見下ろした。黒いズボンに開襟シャツ。学校の制服姿だ。きちんと正座している。
「小夜ちゃん、頼む」
竹川が心持ち膝を進めてくると、立っていたゼンリョウも並んで座って、四人揃って畳に手をついた。
「なによ……」
「小夜ちゃん、見せてくれ。お願いだ」
頭を下げて、丸坊主の頭が四つ並んだ。両手がハの字になっている。それが可笑しくて小夜子はつい失笑した。
 顔を上げた四人は息を止めていたみたいに赤い顔で、頭の中まで汗が光っている。事態を考えれば大変なことなのに、なぜか危機感はなかった。


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