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栗花晩景
【その他 官能小説】

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秋霖-5

「こんなに気を遣わないで。却って悪いわ」
封筒からチケットを取り出して眺めながら、
「この人、すごいのよ。知ってたの?」
 その演奏家について話し始めた。ドイツの若手ピアニストで、ショパンコンクールで一位になったとか、二度目の来日でまだ二十四歳だとか、私には興味のないことばかりである。由美子は顔を上げずにチケットとパンフレットを見ながら話し続けた。その目元にほんのり赤みがさしている。長いまつ毛の瞬きが忙しない。
(可愛い……)
膝を揃えて行儀よく座っている格好が何とも少女のように愛らしい。

「あの人、一緒に行ってくれるかしら。音楽は苦手だから……」
小首をかしげた仕草でほつれ毛が頬にかかった。
「ぼくが、行ってもいい……」
呟くように言葉が出ていた。意味は聞き取れなかったにちがいない。何か言った……。
 由美子が顔を上げた。その時、ぷつんと切れた抑えた感情は限界を超えた欲望の一矢だった。

「ぼくじゃだめですか?」
「え?」
立ち上がった私が迫っても表情は変わらない。事態が飲み込めていない。彼女の横に座って肩に手を回して、
「何?」
ようやく私の行動を察したようだ。すかさず抱き寄せた。
「義姉さん、好きだ」
由美子が何か言う間を与えず唇を押しつけた。
「う……」
身悶えが起こったが舌を差し込むと動きが止まって喉で喘いだ。歯を閉じている。応じているのではない。驚きのあまりか、大きく目を開け、眼球がくるくると動く。

 唇を項に移す。
「ああ……」
顎を出して息を洩らした。
「義姉さん……」
背中を引きつけていた手が腰から太ももに触れるに及んで、由美子は弾かれたように私の胸を押し返した。

「何してるかわかってるの?」
息が乱れている。私は怯まなかった。
「わかってる。好きなんだ。好きだからするんだ」
のしかかってソファで重なった。
「あ、いや、だめ」
スカートが捲れて太ももが露になる。素早く下着に手を差し入れた。
「あっ」と声を上げ、私の手首を掴んで抵抗をみせた。
「待って!」
(待たない)
そのつもりの流れであったが睨みつける形相に動きが止まった。指先は下腹部に入り、陰毛にまで達している。

「こんなの、だめよ」
「好きなんだ、義姉さん」
「そんなこと言ったって、どうしようもないでしょ。わかるでしょ」
「わかるから、我慢できなくなった」
「なに言ってるの」
下着の中の手を動かすと由美子にも力が加わり、
「だめだって。怒るわよ」
下腹の辺りで私の手は掴まれているが、押し込めばわけはない。由美子の力加減に合わせて間を置いた。

「ね、やめましょう。何もなかったことにするから」
一瞬のこと、理性がよぎったが、そのわずかな間隙は由美子の力が弛んだ時でもあった。
 被いかぶさった。
「あ!」
顔をそむけたので目の前にきた耳に口をつけて舌先を入れた。
「ううううぅ!」
遠吠えのような唸りが響き渡った。
(なんだ?)
歯ぎしりをするほどに顔を歪め、手首を抑えていた手はいつしか私の背に回って服を鷲掴んでいた。
(感じている!)
ふたたび唇を合わせた時、由美子の体はもはや芯が抜けたように柔らかく、そして熱くなっていた。

「あうう……」
下着に手をかけても拒む素振りもない。とろけはじめている。尻から一気に引き下ろした。
「あ……」
反射的にわずかに身をよじったものの秘部を隠すまでには至らない。
(流れに乗った……)
パンティを抜く。由美子はかかとを上げてはっきり意思をみせた。

「約束して……」
虚ろな眼差しである。
「今日だけ……一度だけ……」
私は黙って頷いた。
「約束よ、約束。……こんなこと……あたし……」
消え入るように言いながら目を閉じた。そして、
「ベッドへ……」
息の継ぎ目に言った。
(由美子を抱く……)
感情豊かにピアノを弾く彼女がいま、股間をさらけ出して『女』と化す。


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