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栗花晩景
【その他 官能小説】

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早春編(1)-1

 忘れていた記憶なのに、ふとした折に鮮明に甦ってくる出来事がある。

 十二歳の夏、どういう経緯があったのか定かではないが、近所の空き地に、私と村山正、そして近くに住む佳代子がいた光景を思い出す。佳代子は小学校二年生、私と村山は六年生であった。
 佳代子は体はさほど大きくはなかったが、表情が豊かで、鼻筋が通っていて大人びた面立ちをしていた。子供であっても美人であることは目を惹くものだ。私は自分では気づかないうちに彼女を意識していたのだと思う。

 彼女を見る度に時代劇に出てくるお姫様のイメージが広がったのは、七五三の時の化粧をした顔が脳裏に残っていたからだと思われる。ふだんはゴム跳びやドッジボールで駆け回ってスカートを翻して遊んでいたのに、その日の佳代子に笑顔はなかった。
 大人たちの賛辞を浴びながら、着物姿の彼女は終始俯き加減で、目だけくりくりと動かしていた。
 神妙なその顔の頬紅や口紅はとても眩しく見え、私は離れたところから仄かなときめきを抱いて見つめていたものである。子供が化粧をすると『子供』ではなくなるという不思議な違和感が子供心に強く焼き付いていた。

 その空き地は、一画に丸太や建築資材が積み重ねられてあり、三角ベースの野球が出来るほどの広さがあった。私有地だったはずだが、子供が入り込む分には咎められることもなく、たいてい誰かが遊んでいた。
 なぜか周囲の半分ほどがブロック塀で囲われていて、反対側には何もなく自由に出入りできた。高学年になるとわざわざ塀をよじ登ってその上に立ち上がってから飛び降りる。小さい子はそれが出来ないので羨望の眼差しで眺めていた。

 佳代子がそう言ったのか、私たちが誘ったのか、佳代子がブロック塀を越えることになった。もちろん私と村山が手を貸してのことだが、話の切っ掛けは憶えていない。少なくとも何かを意図してのことではなかった。

 自力では到底不可能な塀を越える期待に佳代子の瞳は輝いていた。
 まず私が飛びついて登り、塀の上に跨った。佳代子がさすがに不安そうな目で見上げている。
「だいじょうぶだよ」
そう言って手を差し伸べた時、その感情は起こった。かすかな胸の高鳴り、少し息が弾んできた。佳代子の汗ばんだ手に触れるとその『想い』はさらに膨らんだ。

 そのままでは引き上げられないので、村山が彼女の脚の間に頭を入れ、肩車をして立ち上がった。佳代子の顔が目の前にくる。
「くすぐったい」
笑って身をくねらせた動きが歓びを表しているように見えた。
 村山の頭も顔もスカートの中にある。そこがくすぐったいのだ。

 佳代子は自分で乗り移れる位置にいたが、私は労わるように腕を取り、体に触れた。
「あぶないよ、あぶないよ」
湿っていてとても柔らかい感触が伝わってくる。女の子の体に触れたのは初めてのことである。
「わあ、高ーい」
塀の上に腰かけて佳代子が叫んだ。
 私が敷地の中に飛び降りると、すぐに村山があがってきた。
「あぶないよ」
村山は佳代子の腰に手を回して抱えた。
「平気よ、怖くないわ」
屈託なくはしゃぐ佳代子をしっかり抱いた格好だ。
「降りるよ」
私の語気は自然と荒くなっていた。村山の手を早く佳代子から離したかったのだ。

「おいで……」
ぶらぶらさせている両脚を抱え、少しずつずらしていく。スカートが捲れてパンツが見える。
「くすぐったい」
佳代子がまた笑った。脇に差し入れた村山の手が胸に当たっている。体に熱が走ったのは嫉妬だったと思う。佳代子を抱きとめた時、その気持ちが咄嗟の行為に繋がった。
 私は彼女をすぐに下ろさなかった。右手は背中を抱え、左手は尻を支えたまま動かなかった。汗と肌の混然となった匂いが鼻をつき、言い知れぬ心地よさに陶然となった。私は目を閉じて佳代子の項に鼻を押し当てた。同時に、柔らかな尻を揉んだのは無意識といっていい。佳代子は身悶えして笑いだした。
「いや、いや」
目を開けると村山がじっと見下ろしていた。
「今度は俺が引っ張る番だ」
怒ったような顔で言った。私は黙って頷いた。まるで初めから計画していたみたいに。……
 


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