恋人ごっこ-5
「ふ、古川……?」
驚いたようにあたしを見つめる駿河。
その顔を見てるともういろんな思いが溢れて止まらなかった。
でも、あたしの中に残るほんのわずかな良心がチクリと胸を刺す。
脳裏を霞めるのはやっぱり里穂ちゃんのこと。
あたしはそんな里穂ちゃんの幻影を思い浮かべながらギュッと目をつぶる。
……ごめん、里穂ちゃん。
そしてゆっくり目を開けたあたしは、駿河に向かってニカッと笑いかけた。
「いーよー。タクシーなんていくらかかるか分かんないし、始発で帰るから。だから、それまででいいなら恋人“ごっこ”で免疫力つけさせてよ」
「え?」
「花火デート。してくれるんでしょ?」
あたしがそう言うと、呆気に取られたみたいに口を半開きにしている駿河。
その顔がなんだか間抜けに思えて、クスリと笑いたくなる。
駿河の手のぬくもりを感じながら、あたしは
「それじゃあ、今から始発まで恋人ごっこね」
と言いながら、改札口に向かって駿河を引き連れて歩き始めた。
里穂ちゃん、ごめんね。あなたの気持ちを知りながら、形だけとは言っても恋人の真似するなんて、最低だよね。
でも、なんでか自分がこうすることを止められなかったの。
決して駿河にほだされたわけじゃない。
あたし、駿河ともっと一緒にいたいって思った。
里穂ちゃんのことを考えたらこんなこと裏切りだってのはわかってる。
でも、我慢するから。自分の気持ち、ちゃんと抑えてみせるから。
だから、せめて始発で帰る数時間だけ、駿河の彼女でいさせて下さい。
瞳の奥から込み上げてくる涙を必死に飲み込みながら、あたしは繋いだ手にキュッと力を込めた。