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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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恋人ごっこ-4

だけど、どうしても里穂ちゃんの顔もちらついてしまうのも事実である。


勇気を出して駿河を誘ったのに、断られた時のあの里穂ちゃんのショックを受けた顔。


彼女のことを思えば、こうやって二人きりでいる状態が良くないってのは一目瞭然なのだ。


駿河と二人で打ち上げなんて、里穂ちゃんに言えるわけないじゃない。


あたしはそう結論づけると、駿河を見上げてゆっくりと唇を開いた。


「駿河……、あたし、やっぱ帰……」


「……恋人の真似事でいいんだ」


でも、そんなあたしの言葉を駿河が上から被せるように遮ってしまった。


静かにそう言った駿河は、無邪気に笑っているはずなのに一瞬だけ寂しそうに見えた。


「駿河……」


途端になんだか泣き出したくなる。


単なる打ち上げのお誘いに過ぎないはずでしょ? なんでそんな顔するの?


バツが悪そうに笑いながら鼻の頭を掻く駿河に、あたしは二の句を繋げないでいた。


そんな気まずい沈黙の折りも折り。


遠くから駅員さんの威勢よく叫ぶ声が聞こえてきた。


「すいませーん! もうすぐ閉めまーす!!」


その声にハッと我に返る。


見ればすでにホームには誰もいない。


そうか、もう電車は始発まで来ないから営業時間が終了なんだ。いつまでもここでうだうだしていることはできない。


でも、このまま駅を出たってどうやって帰ろうか…。


2千円くらいしか持ち合わせていない自分の財布を呪いたい。


躊躇いがちに駿河をチラリと横目で見ると、バッチリ目が合ってしまった。


その途端に、イタズラっぽく笑う駿河は、


「しょうがねえ、とりあえずここ出ようぜ。大通り出ればタクシー拾えるから。ああ、金は俺がもちろん出すから心配すんな。それよりさっきは変なこと言って悪かった」


と、いつもより明るい声でそう言った。


だけど、それがかえってあたしの涙線を刺激する。


……声、上擦ってるじゃない。


そして、いつの間にか絡まっていた手がパラパラほどけ始めていく。


きっと、この状態をあたしが嫌がってるとか思ってるのかな。


そう想像すると、ズキッと胸が痛くなる。


違うの。イヤじゃないの。ホントはあたし……!


気付けばあたしは、一本一本離れて行く指を取り戻すかのように、自分からもう一度駿河の手を握りしめていた。







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