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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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恋人ごっこ-6

そんなあたしの様子に何かを察したのか、駿河が急にあたしの顔を見つめてきた。


「……どうした?」


「ううん、なんでもない」


いけないいけない。辛気くさい顔をしていたら変に思われちゃう。


なんとか笑顔を作って歯を見せてやると、彼もまた、フッと笑いかけてくれた。


その笑顔は、なんだか駿河の気持ちが込められているような気がして心臓がせわしなく脈を打つ。


恋人同士ってこんなくすぐったい感じなんだ。


なんだか照れ臭くなって、挙動不審になりかけているあたしに駿河はさらにダメ押しをしてきた。


「さ、コンビニで花火買って、ショボいけど花火大会しようぜ、“小夜”」


突然の名前呼びに、あたしはまたまた金縛り。


駅を出た所で歩みが止まったあたしを、駿河が不思議そうに振り返った。


「ん? 何固まってんの?」


「や、あの……、今、小夜って……」


ただでさえ手を繋いでる自分がなんだかこっ恥ずかしいってのに、下の名前で呼ばれたりなんかしちゃったら、身体が火照るは赤面するわで、もうどうしていいのかわからない。


なのに、駿河はこんな時ですら、普段のSっぷりを発揮してくる。


「彼女を下の名前で呼ぶなんて当然だろ? 小・夜」


うぎゃー、恥ずかしいってば!


勝手に悶絶しているあたしを見て、駿河はさらに、


「……かわい」


と、フッと笑う。


何だか駿河はあたしの反応がおもしろくてわざとそうしてるみたいだ。


すっかり人通りの少なくなってしまった大通りを歩く間中、あたしは悶えてばかりだった。


恋人ごっこ、思ったよりもハイレベル。


恋人ごっこを始めた途端に、うまく演じきる駿河の姿には照れくさいやら感心するやら。


――果たして始発まであたしの心臓が持つだろうか。


ささやかに吹きつける真夜中の風が、あたしの火照った身体から熱を奪い取って行くのに、心の中はますます熱もつ一方だった。







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