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栗花晩景
【その他 官能小説】

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風花-4

 男の子が産まれて新しい生活が始まった。やがて性生活も復活したが、育児という役目が加わると恵子にはいくつもの負担が増えてなかなか集中することはできない。気持ちの上でも子供に比重がかかるのはやむを得ないことである。だがそれをわかっていながら、男は性に関しては身勝手である。満たされないと、それを理由に自分に言い訳をして何度か街娼を買った。
(仕方がないだろう……)
恵子には気付かれてはいなかったと思う。

 時間をかけて愛し合えるようになったのは一年ほど経ってからである。
 本格的な再開の日。それは日曜日の午後のことだ。
「今夜……ね……」
その日の朝、恵子が後ろから抱きついてきて私の股間を握って囁いた。むくむくといきり立った。
「すごい……」
掻き抱き、濃厚な口づけはそのまま陶酔の世界に没入するかと思われたが、子供の声に恵子は我に返った。遮断である。

 午後、子供が眠ったところで抑えていた欲情が限界となった。
抱き寄せる。
「夜よ……」
「恵子……」
「夜、ゆっくりと」
「ちょっとだけ」
「ちょっとじゃいや……」
彼女も求めている。
「シャワー浴びる」
「いいんだ、このまま」
「だって……」
寝室に導くと、
「抱っこ……」
甘えて腕を絡めてきた。

 一糸まとわぬ妻の体。初めて眺めるような新鮮な昂ぶりであった。思えば全裸をじっくり『鑑賞』したことはない。
 子供を産み、ややふっくらとした体は相変わらず均整がとれて美しい。乳房は一回り大きくなって豊かに揺れる。

 脚を開かせる。
「いやん、恥ずかしい……」
言いながらも抵抗なく恥裂を見せ、胸は昂奮の波を打つ。
 そのまま重なってくる……と、恵子は思ったようだ。私の顔が股間に沈んでいくと慌てて頭を起こした。
「だめよ。さっきオシッコした」
起き上がりかけた体は口を押しつけると呆気なく倒れ、
「あうーん……」
鼻に抜けた媚声とともにのけ反った。

「いや……汚れてるのに……」
言葉と裏腹に局部を迫り上げてくる。脂ののった肉体に酔いしれながら、私は甘美な時間を味わい、迸る歓びに埋没していった。

 夫婦生活……。よく聞く言葉である。
「夫婦生活は順調ですか?」……。
 特に意を含めず、新婚間もない夫婦に使うことも多い。ご機嫌伺いだったり、甘い生活をくすぐって言うこともある。広い意味で結婚した男女の日常をいうこともあるが、狭義には『性生活』を指す。夫婦にはセックスは当然あるべき実態なのである。情欲があるから性愛の結びつきが生まれる。それは愛であり、慈しみであり、敬愛でもある。その根源に性の融合がある。私はそう思っている。

 満たされた毎日……。その想いの中にふとシコリのような感覚を抱くようになったのはいつからだろうか。明確なきっかけがあったわけではない。求め合い、体を合わせて燃え上がる情念をぶつけあっていながら、
(何かが、足りない……)……気がすることがあった。
恵子は、感じているのだろうか?……

「いい気持ちよ……感じるわ……」
いつも上ずった声を洩らしながら、恵子はうっすらと笑みを浮かべ、
「好きよ……」
私を抱きしめて大きく吐息する。
(受け入れてもらっているーー)
その想いが残るようになった。
(到達できないでいる?)
 晴香も弥生も忘我の境まで昇りつめて瞬時の記憶さえ失うほど燃えたものだ。弾けた瞬間のことは夢のような感覚として打ち震える全身に散りばめられる。陶然とした表情が物語っていた。
 人によって反応に違いはあるだろう。だが、達した時の体の動きは制御しようのないものである。その痺れ、引き攣った変化ははっきりとわかる。恵子にはいまだそれがない。
(絶頂を迎えているのだろうか……)


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