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栗花晩景
【その他 官能小説】

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風花-3

 順調な結婚生活であった。恵子は、つわりに苦しみながらも精一杯家事をこなしていたし、料理は失敗続きの毎日であったが、いじらしい奮闘ぶりは微笑ましくもあり、彼女の言動のあらゆることが愛しく思えたものである。

 マンションと恵子の実家とは歩いていける距離である。末っ子の娘一人、昼間はおそらく実家に入り浸って母親とべったりなのだろうと思っていたが、そうではないことがしばらくして分かった。
「恵子に、たまには顔を出すように言ってくれないか。女房が淋しがっていてね」
社長である義父から言われて意外なことだった。

「すぐ近くなのになんで行かないの?」
義父の言葉を伝えると、
「あたしはあなたのお嫁さんになったの。近くにあっても家を出たってことよ」
張り出してきた腹をさすって頬をほんのり染めた。

 結婚して間もなくのことだが、仕事も住まいも三原家のおかげだと母が恵子に話していると、父が冗談に、
「まるで養子だな」と笑ったことがある。
 恵子はそのことを気にしているのではないかと私は思っていた。しかし意地を張っているようには見えない。その後、彼女の家には私が誘って二人で出掛けるようにした。
 
 甘い蜜月とはいかなかったが、私たちは笑顔のある毎日を送っていた。
ただ、性生活については満たされているとはいえなかった。日に日に臨月に近づいていることを考えれば仕方のないことではある。わかっていながら彼女をいたわる想いとは裏腹に欲求は常に悶々としていた。

 思えば、再会から妊娠、結婚までが早過ぎた。
(セックスを楽しむ……)
まだ余裕を持てないうちに『生活』が始まってしまった感がある。

 恵子も私を無視していたのではない。ベッドでは抱きついてきたし、乳房への愛撫は悦んでいた。しかし集中することはできないようで、しばらくすると気持ちが逃げていると感じることがあった。
「どうしても気になっっちゃうの。ごめんね……」
済まなそうに言って、射精を促すように私を握ってきた。体位によっては無理なくできるのだが挿入を嫌がった。恵子が見つめる『排泄作業』は味気なかった。

 恵子は身も心も母になるための準備に入っていたのである。セックスへの関心が薄れていくのは当然のことで、それは理解していたつもりだ。新しい命の実感を受け止めている穏やかな笑みを見れば私にも想いが伝わってきて、時には熱いものが込み上げてくることもある。
 おなかに手を当てて恵子がじっと目を閉じていることがある。そっと黒髪を撫でると大きな瞳が笑った。
「もうすぐよ……」
彼女は家族三人を思い描いているようだった。

 ある夜、私は自慰に溺れた。そのつもりはなかったにもかかわらず、不意に疼き、充溢した。何気なく触っているうちに体内にポッと火が灯り、少しずつ温かい感覚が拡がっていく。横に寝ている恵子ではなく、過去に体験した場面が現われて温もりは熱さに変わっていった。
 目を閉じると晴香の緊張した顔が映し出される。ホテルの前でためらう姿。……
(初めて彼女を抱いた夜……)

 記憶の再現はゆっくりと進み、実際にはしなかった行為も織り交ぜていく。期待と不安に強張る晴香をやさしく導いて、進行に合わせてペニスに刺激を与える。性感が高まってくる。
 横向きになって太ももに擦りつけた。もどかしい快感である。奥底からじわじわと滲んでくるような心地よさが徐々に高まりをもたらしてくる。太ももを反対にすると新たな感触が生まれる。
 晴香がペニスを握って目を閉じる。
(咥えるんだ……)
私の手は自然と強く動き出す。
(ああ……)
恵子の寝顔を窺いつつティッシュを引き寄せた。
 いよいよ晴香の秘部を開く。薄毛の亀裂が赤い口をみせる。
(晴香!)
挿入だ。……苦しさに歪む顔。ゆっくり前後させる。そして次第に動きを速め、激しさの中で晴香が声を上げると同時に私は突っ張った。被ったティッシュが晴香の膣になる。私は呻いた。

 この時から、私は時折夢想のドラマを作って愉しむようになった。悲惨な結果に終わった美紗も、ドラマの中では幼い瞳の奥に妖艶さを潜ませて私を誘って悶える。細谷、大村真理子、相手は何人もいる。密やかな世界は広がっていく。私は好きな時に好みの女を登場させて演出した。


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