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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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最終電車-3









終電間近の駅のホームは、花火大会のせいかいつもより賑やかだった。


やけにカップルが多いのも、花火大会のせいなのだ。


右を見てもカップル、左を見てもカップル……。


みんなこのくそ暑い夏だというのに、ベッタリくっついていて目に毒極まりない。


やり場のない視線を仕方ないからバイト仲間に向けてみる、けど。


…………。


パリッとアイロンがけされた白いシャツにデニムのハーフパンツの駿河と、背中が少しだけ開いたエメラルドグリーンのふんわり女の子らしいワンピの里穂ちゃん。


端から見れば、この二人だって立派にカップルに見える。


だって、駿河に一生懸命話しかける里穂ちゃんは、吉川くんと一緒にいる時の絹子みたいにキラキラ輝いていて、恋する乙女そのものだし。


こんな可愛い娘に「二人きりで飲みに行きたいです」とか言われたら一発で落ちちゃうんだろうなあ。


あたしがおんなじ台詞を言ったって、「気持ちわりい」ってバカにされるだろうけど。


里穂ちゃんにタジタジになってる駿河を見てるとクスッと笑いが込み上げてくる。


駿河はなんだかんだ言ってかっこいいし、その割りに奥手みたいだから里穂ちゃんみたいな可愛くて積極的な女の子がきっと似合ってる。


なのに、二人が付き合うことを想像した途端、ゾワッと逆毛立つような感覚が胸の内側からじわりと広がって、駿河の顔が色褪せていくような気がした。


ダスターをあたしの顔面に投げつけたり、目が合えば口パクで「アホ」とか「ブス」とか言ってきたりするあのムカつく駿河の行動。


多分、二人が付き合ったらこんなやり取りもなくなっちゃうのかな。


あんなムカつくやり取りが無くなるなんて、せいせいするはずなのに、それを想像するとなぜか目の奥が痛み始めてくる。


俯いて黙っていると、駿河の手が視界に入ってきた。


日焼けしてゴツゴツ骨ばっているけど、長い指が綺麗な手。


この手が、あたしが怪我をしないように守ってくれて、酔っ払いから庇ってくれた。


普段はあんなに意地悪なのに、実は密かに優しくて。


……駿河。あたし、自分で自分がわかんないよ。


あんたが変な所で優しくするから、あたしは自分のことがわからなくなっちゃうんだよ。


手を伸ばせば届く距離が、なんだかやけに遠い。




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