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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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最終電車-2

店長が上司の本部長に頭を下げ、社員の沼津さん、責任者の駿河達に相談して、ようやく勝ち取ったこの休み。


それはきっと、普段頑張ってる店長へのご褒美なんだろう。


店長は、おもむろに愛車の赤いママチャリに跨ると、疲れを一気に吹き飛ばすみたいな満面の笑顔を見せた。


「んじゃ、お土産買ってくるからな!」


「店長、高いものよろしくー」


「気をつけていってらっしゃーい」


あたしや里穂ちゃんに冷やかされながら、店長はゆっくりペダルを漕ぎだした。


少しずつ小さくなる店長のくたびれた後ろ姿。でも、愛する人の待つ家に向かうからか、そのスピードはどんどん加速して行って、彼の姿はあっという間に見えなくなった。


「すっごい、店長。よっぽど早く帰りたかったんだね」


なんて振り返ってみると、どことなく浮かない駿河の顔が目に飛び込んできた。


「……駿河?」


キョトンと首を傾げて奴を見ると、駿河はハッと我に返ったように、


「あ、ああ、どうした?」


と、こちらを見た。


「なんか、上の空」


「ああ、ちょっと疲れただけ」


無理矢理作り笑いをして見せる駿河に対して、あたしも里穂ちゃんも頭の上にハテナマークを浮かべながら目を合わせてしまった。


なんだろ、ぼんやり考え事をしている駿河の姿なんて初めてだ。


里穂ちゃんはまだ駿河を飲みに誘ってないからそれについて悩んでいるわけがないし。


うーん、気になる。コイツ何考えてるんだ?


気付くとどうやらあたしは穴が開くくらい駿河のことを見ていたらしく、奴は少し頬を赤くしてあたしをジロリと睨みつけた。


「気持ちわりいからジロジロ見るんじゃねえ」


口を尖らせてそう捨て台詞を吐いた彼は、くるりとあたし達に背を向けて


「ホラ、帰るぞ」


と、一人で先に駅の改札をくぐり抜けてしまった。



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